恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

「搾取されただけの人生だった! 没落した一家のために、毎日身の回りのお世話をして、都合よく久我家に売られて、お金にされて! こんな家族の元になんていたくなかった!」


 周りはこちらを見ている。体裁を気にする父は、私と義母の間に入り「やめないか!」と止めていたが、当然そんなもので止まる人ではない。

 義母は顔を真っ赤にして震え「この…!」と声を発すると手を上げ、私を打《ぶ》とうとした。反射的に目を瞑ったが、痛みはやってこなかった。

 代わりに聞こえたのは低い声。


「何をしている? 久我家の妻に手を挙げるなど、お前達ごときが許される行為ではない」


 瞼をそっと開くと、義母の手首を掴んでいた旦那様がいた。目を見開き、彼の方を見ていると、すぐに私を捉える。


「無事か」

「どうして、ここに…」

「迎えに来た。その準備が整ったからな」

「迎えに来た、って…」

「久我に帰ってこい、花純」


 そう言って私に近寄ると、有無を言わせないように、そのまま私の手を掴んだ。

 本当に迎えに来てくださるなんて、思ってもいなかった。この状況に私も、華堂家の一族も、全員が唖然としている。

 辺りは静まり返り、この少女小説のような展開を見守っていた。