恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 それからも特別変わらない日々を送っていた。

 毎日毎日、お食事にいらっしゃるお客様に接客をし、そのうち私も可愛がられるようになった。ここでは誰も私が妾の子と知らない。だから、お客様も馴染みの方は「花純ちゃん」と笑顔で、明るい声で呼んでくれる。

 初めてだった。こんな風に自分の名前を優しく呼んでもらえたのは。父にだってこんな風に呼ばれたことはない。最初はこんなことが、涙を流すほど嬉しかった。

 同時に、怖かった。もし、私を雇ってくれた人達へ、自分が妾だと知られたら、どうなってしまうのか。軽蔑されて追い出されるのか。このまま隠していて、どこかで知られてしまったらと…。

 そう悩んでいるとき、女将が私に「店の前を掃いてきてくれるかい? 少し暇になったし」と、明るく声をかけてきた。それに「はい」と返事をし、箒を手に掴むと店の前に出た。

 いつも通り店前を綺麗に掃いていると、見慣れた一家が見えた。見間違えるはずもない。父と、その本妻、更には百合奈だ。

 取り繕っていい着物を着ていたはずなのに、今は見違えるほどボロボロな身なりになっている。資金の援助も切れ、仕事も失い、貯金も底を尽きたのだろう。元々金遣いは荒い人達だ。上がっていた生活水準が下がっていくのに、合わせていく方が難しい。