恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 久我家を出た後は、奇跡のようなご縁があった。

 今夜泊まる場所か、働きながら住み込みができる場所を求めて、街を歩いていた。そこでたまたま食事処の呼び込みをしていたところで、なけなしの金を払い食事をしたら、そこで女将が人手が足りないと話し、私を雇ってくれた。その翌日から私は住み込みでその食事処で働いている。

 働くことは楽しかった。ここではきちんと賃金がもらえ、衣食住も整った。あの時、華堂家で受けたのは搾取で、恩恵も何もなかったから。

 今は自由の他に、やりがいや生きがいを感じている。

 また、噂も多く耳にした。支援を断ち切られた華堂家は、さらに没落し、社交界には入っていけなくなったこと。百合奈はさらに貰い手がなくなり、行き遅れていること。不審な金の動きがあり、調査が入ったこと。

 聞きたくはないが、元は名家だったため、没落してからも噂の元になった。

 それと、旦那様…、久我家のご長男は、菓子屋に通うことはなくなり、狂ったように働きづめになっているらしい。その時、違和感を感じる噂があった。


『前はここによく食べに来たのに、最近見ねぇな』
『そんな飯も食う時間もないほど働きづめになってんだろうか』


 そんな噂。誠也様はここの常連だった? そんなはずは…。もしそうだったとしたら、私が雇ってもらったのは、裏で旦那様がそう指示したから? いろいろな憶測が頭をよぎる。

 あの日、旦那様は『今は、俺の力不足で引き止められないかもしれない。だけど、必ずお前を迎えに行くから。だから、見えないところには行くな』と仰っていた。

 その言葉通りであれば…。