恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

「…探さないでください。旦那様は、お家柄の良いお嬢様と」

「そんなのは求めてない!」


 私の言葉を遮り、強く言葉を放つと、私の頬を両手で挟み、涙を流しながら、私の額に彼の額を合わせた。

 こんなに辛い別れがあるとは思わなかった。

 私の人生のどん底は、私が生まれた時だと思っていた。その瞬間、私は妾の子として生きることが決まり、母は亡くなっていたのだから。


「お前を傍に置くって言っただろ。お前から離れようとするな」


 あの日、確かに言った。


『…旦那様は、何があっても私を傍においてくださると約束してくださいますか?』

『お前が俺を裏切らない限りは捨てない。だから、お前も俺に忠誠を誓え』


 その会話を旦那様は覚えていてくださり、約束を守ろうとしてくれた。

 旦那様の言葉に堰き止めていた涙があふれだす。彼の前では絶対に泣かないと思っていたのに、保身のために放った言葉をずっと守ろうとしてくれていた。


「…旦那様。私は旦那様に対し、愛を求めるようになったのです」

「は…?」

「私は旦那様を一方的にお慕いしておりました。それなのに、いつからか愛されたいと思うようになったのです」


 彼は人を愛さないと言っていた。それは、妾に大旦那様を奪われ、大奥様は心を病まれて、命を絶ったから。その日から旦那様は、妾という存在を強く恨んでおり、人を愛せないと話していた。

 この話を知っていながら、欲張りになった私をもう庇う必要はない。