恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

───大正十年、秋。

 盃に注がれた神酒の表面が、私の姿をぼんやりと揺らしながら映していた。

 すすり泣く声も、祝福の言葉もない。ただ、厳粛な静寂だけが満ちる奥座敷で、私はこの日、身代わりの花嫁となった。

 私の隣に座る、久我《くが》 誠也《せいや》。彼は黒紋付羽織袴に身を包んでいる。涼しげな切れ長の目の奥には、祝賀の喜びなど微塵も浮かんでいない。三三九度の盃を交わす際も、その細く長い指先は事務的に動き、私と視線を合わせることすらしなかった。

 私が今日着てきたのは、母の形見の古い黒留袖。華堂の家からはろくに仕立て直してももらえなかったが、せめて半衿の刺繍だけは数日前から私が自分で夜なべをして、丁寧にかすみ草の和柄を縫い付けた。

 だが、誰もそのささやかな手仕事に気づくはずもない。私が自分のために、母のために、勝手にしたことだ。誰かに認めてもらおうとか、称賛してもらおうとも思わない。

 隣に座る彼は表情を一切変えることもなく、ただただ時が過ぎるのを待っている。私も彼を見ることなく、ただ盃を見ていた。