恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 拒みたくなんてなかった。このまま旦那様と幸せに暮らしたい。

 だが所詮、妾の子は妾なのである。誰かの妻なんて、そんな幸せな状況はない。

 旦那様の手を優しく掴み、解こうとしても、なかなか解いてくれない。


「…旦那様」

「何も言うな」


 私の言葉を遮り、抱きしめる力をさらに強める。


「お前は、誰がなんと言おうと俺の妻だ。妾とか、そんなのは関係ない!」


 そうはっきり言う旦那様の手を、ぎゅっと握りしめると、少しだけ力は緩まり、その間に腕の中から抜け出す。

 振り向き、顔を見ると、旦那様はひどく泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。私は旦那様にそっと微笑み、頬に手を添える。

 きっと私も涙を流していたかもしれない。だけど、最後くらい、笑顔で旦那様と話したかった。


「毎日帰ってくる度、顔を見せてくれる。時折食事が出来る。寝室に時折呼んでくれる時間が、幸せでございました」


 旦那様は聞きたくないと言うように、私の手を掴み、頬に当てたまま首を横に振る。


「旦那様には、幸せになっていただきたいのです。誰かのお傍で 」


 そういうと手を離そうとしたが、旦那様は離さなかった。


「今は、俺の力不足で引き止められないかもしれない。だけど、必ずお前を迎えに行くから。だから、見えないところには行くな」


 切ない表情。

 こうならないと、彼にも愛されていたことには気付かなかった。