恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 私は少し微笑み、改めて大旦那様に向き合う。


「ですから、旦那様のお咎めだけはお許しください。華堂家がすべて悪いのです」


 そう言うと、床に三つ指を突き、額をつける。私に残るものはない。もちろん、プライドや立場なんてものも。

 大旦那様は「行きなさい」と私に言い放つと、私は顔を上げ、部屋に戻る。それから荷物をまとめていた。その最中、真っ白の割烹着を掴んだ。

 嫁入りの時にと、母が唯一私に残してくれていたものだった。それを掴み、バッグの中に大事にしまう。

 その間、廊下から足音が聞こえてくる。急いだような足音に、私は振り向きもせず、荷物の整理を続けた。

 ドアをたたくこともせず、ドアを開けると、旦那様は焦った表情で私の方を見ていた。


「なんであんなことを…!」


 言葉は途中で止まり、旦那様は私の姿を見ていた。


「…本気で出るつもりか?」

「はい。お世話になりました」


 涙も見せず淡々と、荷物をまとめ続けた。旦那様の方は見ずに、ただただこの場を去ることだけを考えて。

 旦那様は私に近寄ると、後ろから抱きしめてくる。


「行くな」


 初めて聞く、震えているのに意思の強い声。私がこの場から去ることを恐れているのか、旦那様は強く抱きしめてくる。

 初めてだった。決められた夜伽以外で、こんな風に触れてくるのは。