恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 後は私の対処だけになり、大旦那様はここに来た。きっと私は久我家にいられない。

 咄嗟にこの後の行動のことを考えていた。華堂家もつぶれた。久我家にもいられない。私はこの先、どこへ行くべきなのだろうか。唯一の家族であった実母もいない。


「お前には選択肢を与える。ある意味、お前も被害者だからな」


 大旦那様は私に向きなおし、私は大旦那様の方をまっすぐ見た。


「このまま本妻は下り、妾としているなら、何も言わない。それか、ここを出ていくかだ」

「父上! 何を…!」

「お前は黙っていなさい。お前に何かを言う権限はない」


 私がどうするべきかなんて、そんなものを決める権利があるのだろうか。旦那様は、私にどうしてほしいのだろうか。

 旦那様の方に目をやると、彼は首を横に振る。おそらく、何も言うなと指示しているのだと思う。

 だが、旦那様のためになることは、ここで私が去ることではないだろうか。私以外の綺麗なお嬢様がここに来て、旦那様の出世のためになる。

 目を瞑り、深呼吸をすると「久我家を去ります」と答える。旦那様は目を見開き「花純!」と私の名を呼んだ。

 それが初めて、旦那様から聞く私の名前だった。その時にふと熱いものが胸の内に入り込んでくる。

 ああ、きっと私、この人のことを好きだったんだ、と。

 帰ってきたときにふと見せる気の緩んだ表情も、和らいだ優しい表情も。