「そうか」
旦那様は短く返事をする。話を聞き終わった後も、私の頭を撫でる手を止めなかった。妾の子は、汚いと反応する方が多い中、旦那様は私を離そうとしない。
それが少し意外で、同情されているのか、ただ意味はないのか、意図がわからず居心地が悪かった。
「俺は、妾が憎かった」
「え…?」
「うちの母は父を妾に取られ、それから心を病み、命を絶った」
まさかの言葉に息を呑んだ。確かに嫁ぐ時、大旦那様はいた。そこに奥様は見当たらず、気にはなっていたが触れることはできなかった。
ここまで話すこともないだろうと思っていたし、大旦那様には「事前に必要以上のことを知る必要はない」と仰っていた。旦那様もまた、それを望んでいると思っていたから。
「どうして尽くした母が、家庭を顧みない父のせいで心を病み、妾ごときに家族を壊されなければならないのか。その女を、殺してやりたいほど憎かった」
そう語る旦那様の声、私を掴んでいる手も、すべてに力が入っている。ほんの少し痛いくらいに。
私がほんの少し顔を顰めると、旦那様ははっとして力を抜き、「すまない」と言葉を零した。
「だから、これから先、人を愛さないと決めている。愛は何かしらの憎しみを生み出す。愛した相手か、その周りか」
旦那様の独白に何も言うことなんてできなかった。周りからすれば私の母は、父に強引に迫られたとはいえ、家庭を壊した側の人間なのである。父が、「相手に迫られて、誘惑に負けた」と言えば、その通りになる。
それは、立場のせい。母はただの貧しい家で生まれ育った女中で、その時の父はまだ上流階級の人間。どちらの言葉を信じるかなど、一目瞭然だ。
旦那様は短く返事をする。話を聞き終わった後も、私の頭を撫でる手を止めなかった。妾の子は、汚いと反応する方が多い中、旦那様は私を離そうとしない。
それが少し意外で、同情されているのか、ただ意味はないのか、意図がわからず居心地が悪かった。
「俺は、妾が憎かった」
「え…?」
「うちの母は父を妾に取られ、それから心を病み、命を絶った」
まさかの言葉に息を呑んだ。確かに嫁ぐ時、大旦那様はいた。そこに奥様は見当たらず、気にはなっていたが触れることはできなかった。
ここまで話すこともないだろうと思っていたし、大旦那様には「事前に必要以上のことを知る必要はない」と仰っていた。旦那様もまた、それを望んでいると思っていたから。
「どうして尽くした母が、家庭を顧みない父のせいで心を病み、妾ごときに家族を壊されなければならないのか。その女を、殺してやりたいほど憎かった」
そう語る旦那様の声、私を掴んでいる手も、すべてに力が入っている。ほんの少し痛いくらいに。
私がほんの少し顔を顰めると、旦那様ははっとして力を抜き、「すまない」と言葉を零した。
「だから、これから先、人を愛さないと決めている。愛は何かしらの憎しみを生み出す。愛した相手か、その周りか」
旦那様の独白に何も言うことなんてできなかった。周りからすれば私の母は、父に強引に迫られたとはいえ、家庭を壊した側の人間なのである。父が、「相手に迫られて、誘惑に負けた」と言えば、その通りになる。
それは、立場のせい。母はただの貧しい家で生まれ育った女中で、その時の父はまだ上流階級の人間。どちらの言葉を信じるかなど、一目瞭然だ。
