恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 旦那様は私の顔をしばらく見つめ、それから頬に手を添えた。


「お前が俺を裏切らない限りは捨てない。だから、お前も俺に忠誠を誓え」


 まっすぐな目でそう告げる彼を、少し信じたいと思った。ひどく冷たい目をしているのに、嘘はつかない人だと思えたから。

 自分の直感に従っていいのかは、わからない。だけど、今はこの人を信じることしか、救いはないのだ。


「…私の母は、父の妾でございました」

「妾?」

「はい。今の、私の義母が本妻です。実母は元々、華堂家の女中でした」


 よくある話で、驚きもしなかったのだと思う。旦那様はずっと静かに語る私の声を聞いていた。


「華堂家の女中の扱いは見ていられたものではなく、その上、母が父の子供、私を孕んだのが、実母より先だったこともあり、風当たりはかなり強かったようです」


 母がどのように虐げられていたかは、義母から直々に聞いていたからだ。自慢げに、お前の母を支配していたのは私だと言うように。

 それが、ものすごく悔しかった。妾の子という立場が私をどこまでも弱くした。社会的地位も、何もかも。

 言い返せもしない、やり返せもしない。私にできたことは、ただただ耐える。それだけのこと。


「母は私をこの世に産み落とし、すぐに他界しました。幼少期から、私は華堂家の女中として扱われ、今まで生きてきました」

「…気になっていたことがある」

「はい」

「女中から、お前が女性雑誌を読んでいたと聞いた。その扱いだと学校にもまともに通わせてもらっていないだろう。どこで読み書きを学んだ?」

「義母はよしとはしませんでしたが、父は義務教育の間だけは学校に行くことを許してくださいました。妹はその後高等女学校へ。ですので、教養だけは妹の方があります」


 この時代の義務教育は満十二歳までの、六年間だった。この時就学率は九割を超えていたが、その後の進路に関しては家庭の金銭問題によって違った。富がある者は進学、ない者は就職へ。