恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 何も話さない私を見ていた旦那様は、不意に私の手を掴み彼の前に出した。


「この手は、家のことを懸命にしてきたものの手だろ。俺にですらわかる」

「…はい」

「話せ。今のお前は久我家の人間だ。華堂家の人間に怯える必要はない」


 縁を切ったわけではない。まだ契約上の繋がりがある。もし旦那様が私をいらないと判断する、または、援助が切れても華堂家が私を連れ戻すって言った場合、私はあの家に戻らなければならない。

 自分の一つ一つの行動が、後にどんな影響を及ぼすか。それにさえ怯えて、私は今でも自由になんて行動にできない。


「…旦那様は、何があっても私を傍においてくださると約束してくださいますか?」


 いつか捨てられるのであれば、私の心の内側は見せられない。母は、私を身ごもっている時、義母に虐げられていたが、うちの母を妾にしていた父は、見て見ぬふりをした。

 つまり、父にとって母は代わりのきく相手。大事にするべき存在ではないということ。だから裏切られた。

 私は、自分を見捨てない、裏切らない人にしか助けを乞いたくない。救いを求めて、それが無駄だったと絶望したくないから。自分を見捨てる人に、心の内側を見てほしくない。

 父からすれば、母が虐げられようが、泣こうが、喚こうが、…母が死のうがどうだってよかった。私は、母の顔すら知らないまま、この世で生まれ育ち、生きてきた。

 もし母が生きていたら、私は二人でなら逃げようと選択が取れただろうか。