恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 その四年後、明治三十六年、妹の百合奈《ゆりな》は生まれた。妹の百合奈は義母と父の元に念願が叶って生まれた娘であり、それはそれは溺愛された。

 妹が何かを欲しいとねだれば何でも手に入り、対する私はこの家の女中として扱われた。それが定めだと思っていたのもあり、何の不満も持っていなかった。この時代は身分がすべてものをいう。私なんかが何かを言う資格もなかった。

 私が二十二歳になったとき、義母は自分の実子である百合奈を先に名家である久我家に嫁がせて華堂家の格を上げようとした。相手は久我家の長男、久我《くが》 誠也《せいや》。二十六歳。彼は、内務省で眉目秀麗な傑物と謳《うた》われる若き参事官である。

 数か月前に嫁いだ百合奈からは、定期的に手紙が届いていた。毎日久我家の長男からどんな扱いを受けているか、家に帰ってきたいこと、そんな泣き言が毎日毎日。

 それからすぐのことだった。百合奈が帰ってきたのは。


「なんなの!? あの無礼な男は! 二十六歳で行き遅れてるくせに! こんな若い娘が嫁いでやってるのよ!?」


 そう激怒しながら、父と母に訴えていた。


「可哀想に…。よほどいじめられてきたんだね」


 そう慰める義母。正直、当然だと思った。

 この時代の女性は、嫁ぐときのために嫁入り修行を必ずこなす。それを一つもせずに嫁ぐなど、相手に対して不敬だとは思わないのだろうか。

 当然、私はそんなことを口にしない。見ない、話さないを徹底し、話しかけられた時だけ聞く。この家での私の地位は長女としての立場はない。女中だ。