恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 大事な時にしか着ない着物を着て、いつもはあまり足を踏み入れないダイニングとやらに足を踏み入れた。時折、旦那様がここで会食をしたり、食事をする場所である。

 床は寄木細工に高級な絨毯。壁は重厚な木目調やマホガニーのパネル、天井からはシャンデリアと呼ばれる灯りが吊り下げられている。部屋の中央には十人以上が座れる長いマホガニーのダイニングテーブルと、背もたれの高い革張りの椅子。

 私にはやはり茶の間が落ち着く。この空間は、そわそわとして落ち着かない。

 先に来ていた旦那様が、入口から一番遠い端の席に座っており、私はその向かいに静かに座った。それから女中に食事を持ってきてもいいと指示を出す。


「…また刺繍でもしていたか」


 旦那様は珍しく私に話を振った。普段はそもそも一緒の空間にいることは少ないので、こんな風に話すことが少ない。


「…はい。今の楽しみですので」

「そうか」


 そんな短い返事。義務的な会話にも聞こえる。

 実は旦那様に作ったものもある。カスミソウの刺繍を施した、白いハンカチ。どうしてカスミソウの刺繍をしたかというと、最近手に入れられるようになった女性雑誌を見たときに、花言葉特集というのをやっていた。

 そこにカスミソウの花言葉は『清らかな心』『幸福』『感謝』と書いてあった。感謝は今彼に最も伝えたい言葉。

 きっと彼はそんなこと必要がないというと思う。だけど、一方的にでも私は彼に感謝をしている。こんな私を久我家に置いておいてくれることを。