恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 だけどそれは、旦那様の近くで許されていただけだった。彼がいなくなり、女中と私だけになると、状況はがらりと変わる。

 女中に「若奥様、朝餉が出来ましたので、茶の間へ」と促され、「はい」と返事をして茶の間へ向かう。

 そこでは、たくあんに白米だけがちゃぶ台に乗っけられていた。江戸時代のような食事。今、こんな食事をするのは女中でもなかなかいない。陰からクスクスと下卑た笑い声が聞こえてくる。

 わざとだ。旦那様が早く出ることを知っていて、それからは百合奈もこんな風に扱いを受けたのであろう。そして旦那様から信頼も失っていた百合奈は助けを求めても、助けてもらえなかった。

 私は静かに畳の上に正座をすると、両手を合わせ「いただきます」と食材に感謝をした。女中達はきっとそんな私の姿に驚いたのだろう。目を見開いて言葉を失っている。

 私はびくびくと怯えるのをやめた。お飾りとは言え、彼の妻なのである。華堂 花純としてここにいるのではない。今日から私の人生は、久我 花純なのである。

 堂々と振る舞うのよ、花純。

 そう言い聞かせ、たくあんと白米を綺麗に平らげた。それから食器を持つと、陰から見ていた女中に「あの」と声をかける。

 彼女たちはびくっと体を揺らし、こちらを見ている。百合奈のように暴れる想定をしていたのかもしれない。だけど、私はそんなことはしない。

 二十二年の奴隷人生が、私を強くしたと言えるであろう。