翌日、いつも通りの時間に起きる。華堂家では、明るくなる前に起きて、すべての家事をこなすのが基本だったけれど、この家では朝六時に目覚めることを基本とした。
時計があるから、今が何時か簡単にわかる。部屋に付けられた時計を見て、実家から持ってきた、普段着用のクタクタに柔らかくなった木綿の着物に着替える。変わらず紐を短めに結び、帯はかるた結び。仕上げに、長袖の白い割烹着にすっぽりと腕を通した。
実家では汚れ仕事ばかりで着られなかった、憧れの真っ白な割烹着。家事はしなくていいと言われたけれど、せめて朝餉《あさげ》の準備だけでもしようと思い、台所へと向かった。
その時、カツ、カツ、と廊下に硬い足音が響く。
ハッとしてそちらを向くと、すでに完璧な三つ揃えのスーツを身に纏い、革の鞄を手にした旦那様が歩いてくるところだった。
「あ…、旦那様。おはようございます」
慌ててその場に跪き、三つ指をついて頭を下げる。
旦那様は私の前で足を止めると、上から見下ろすように、じっと私の姿を観察した。私の姿を見て、彼の眉がわずかに動く。
「何をしている? 家事はしなくていいと言ったはずだが?」
「勝手なことを申し訳ございません。食事だけは私の方で、と思ったもので」
「そんなことはしなくていい。女中にも俺の分は作らせていない」
その低い声に、さらに頭を深く下げる。
「かしこまりました。せめてお見送りだけでも」
「不要だ。俺の生活の心配をする必要も、見送り、出迎える必要もない。お前は好きに過ごせばそれでいい」
彼はそんな言葉を投げると、そのまま一度も振り返ることなく玄関へと向かい、黒塗りの自動車に乗って仕事へと出かけていった。パタン、と重い扉が閉まり、邸には再び静寂が戻る。
(好きにして、いい…、か…)
誰も私を怒鳴らない。何をしても、誰にも叱られない。変な感じがするのに、心地がいい。
時計があるから、今が何時か簡単にわかる。部屋に付けられた時計を見て、実家から持ってきた、普段着用のクタクタに柔らかくなった木綿の着物に着替える。変わらず紐を短めに結び、帯はかるた結び。仕上げに、長袖の白い割烹着にすっぽりと腕を通した。
実家では汚れ仕事ばかりで着られなかった、憧れの真っ白な割烹着。家事はしなくていいと言われたけれど、せめて朝餉《あさげ》の準備だけでもしようと思い、台所へと向かった。
その時、カツ、カツ、と廊下に硬い足音が響く。
ハッとしてそちらを向くと、すでに完璧な三つ揃えのスーツを身に纏い、革の鞄を手にした旦那様が歩いてくるところだった。
「あ…、旦那様。おはようございます」
慌ててその場に跪き、三つ指をついて頭を下げる。
旦那様は私の前で足を止めると、上から見下ろすように、じっと私の姿を観察した。私の姿を見て、彼の眉がわずかに動く。
「何をしている? 家事はしなくていいと言ったはずだが?」
「勝手なことを申し訳ございません。食事だけは私の方で、と思ったもので」
「そんなことはしなくていい。女中にも俺の分は作らせていない」
その低い声に、さらに頭を深く下げる。
「かしこまりました。せめてお見送りだけでも」
「不要だ。俺の生活の心配をする必要も、見送り、出迎える必要もない。お前は好きに過ごせばそれでいい」
彼はそんな言葉を投げると、そのまま一度も振り返ることなく玄関へと向かい、黒塗りの自動車に乗って仕事へと出かけていった。パタン、と重い扉が閉まり、邸には再び静寂が戻る。
(好きにして、いい…、か…)
誰も私を怒鳴らない。何をしても、誰にも叱られない。変な感じがするのに、心地がいい。
