恋知らぬ冷徹官僚と薄幸のかすみ草

 私の顔を見た旦那様は顔を顰めた。


「何をうれしそうな顔をしている?」

「本当に、家事などはしなくてよろしいのですか?」

「どうして久我家に嫁いだ君がそんなことをする必要がある? そんなことは女中がやるだろう」


 その言葉で納得した。確かに、余所者の私がやるよりも、彼が信用した者が家の中を歩き回る方が安心に決まっている。私がその言葉を飲み込んでいると、彼は気にせず「それと」と言葉を続けた。


「我儘が過ぎなければ、必要なものは買い与えてやる。自由な時間もやる。だが、俺が呼べばすぐに来い」


 条件は旦那様が呼んだ時だけ。それもそんなに回数は多くなさそうだと思った。彼はお飾りの妻を私に求めている。

 それなら望んだとおり、あなたの人形になってやろうではないか。


「かしこまりました」


 すんなりと微笑み返事をする私に、旦那様は目を見開いた。ほんの少し、彼の目に興味が宿る。


「…妹とは、違うな」

「…妹は、何か失礼をいたしましたでしょうか?」


 そう問いかけた途端、わかりやすく表情に嫌悪感を宿し、溜息を深く吐いた。


「失礼どころではない。安っぽい寝間着に着替え、夜伽に来た時は、狂っていると思った。その上、高い服や鞄をねだり、お茶会を開くから庭園を建てろだの。彼女は海外に強い憧れがあるらしく、海外製の茶葉を大量に仕入れろだの、スコーンを作れと女中に無理を言ったり…。そのくせ、話す内容も下品だ」


 思い出すだけで披露している様子だった。

 容易に想像がつく。おそらく旦那様の顔は、百合奈の好みであったと思う。そんな彼の妻になれ、一度は浮かれたであろう。