Ikikata〜君と私の違い〜

「ゆい〜」
私はゆいの名前を呼びながらジュースをかける。彼女は濡れてベタベタだ。
「あ〜最悪〜ジュース無駄になっちゃったじゃん〜」
このいじめが始まった当初、リーダーだった天音は私と仲良くするものの、遠くで見るようになった。若干、私に対して引いているようだった。
「ねぇ〜お金返して?笑」
私がそう言うと、ゆいは濡れたポケットから財布を取り出す。しかし、私に渡したのは100円玉一枚だった。
「は?これじゃあ水しか買えないじゃん」
私がそう言うと、ゆいは、
「今、それしか持ってないの……」
と言った。しかし、私は知っていた。ゆいが朝、学校に来て一万円札を財布にしまっていたのを。
「一万円札、あるんでしょ?」
私がそう言うと、ゆいはビクッと体を震わせた。私は財布を奪う。
「じゃあ、これ貰うわ」
私がそう言うと、ゆいは泣きながら
「これはっ陸斗に渡すプレゼント用のお金なのっ……本当にダメ……やめてくださいっ………」
ゆいは私の腕を掴んでそう言った。しかし、私はそれほど甘くない。
私は一万円札を摘む。そして、ひらひらと揺らす。
「ありがとね」
私がそう言って立ち去ろうとすると、天音が後ろから近づいてきた。
「ねぇ…流石にやりすぎじゃない?」
そう聞かれて私は一瞬で頭に血が上った。
(何よ…今まで味方して…楽しんでたくせに!!)
私はそう思い、天音を睨みつける。
「どういうことなの?どういう心境の変化?」
私がそう聞くと、天音はスッと黙った。
「ごめん…」
天音はそう言ってそっぽを向いてしまった。私はそんな天音を見つめながら、言おうと思っていたことを思い出す。
「新作のパフェ食べに行かない?」
私が笑顔でそう聞くと、天音は
「行く」
と言った。私は天音に笑顔を向ける。天音も私を笑顔で見ている。
(ゆいを省くだけでこんな楽しい毎日になるなんて!)
私はその毎日に感動している。

次の日、私が学校に行くと、ゆいの席には花束がいくつも置かれていた。
「何これ……」
私がゆいの席を見つめていうと、横にいた陸斗が
「ゆいは自殺未遂で今病院……この花束はみんなからのゆいへの…思いだよ……」
と言った。
(知らなかった…自殺未遂だなんて……)
私がしばらくぼんやりしていると、先生が教室に入ってきた。
「三崎ゆいさんの自殺未遂について…校長先生が全校集会を開くそうです。今すぐに並んで、体育館に向かってください」
先生はそう告げて、教室を出て行った。私たちはざわざわしつつも並ぶ。
(なんでわざわざゆいのために全校集会まで開くんだよ…めんど…)
私はそう思っていた。チラリと天音の横顔を見ると、曇っている。目元がうっすら光っているような気もする。
「天音!そんな顔すんなって!どーせ仮病かみんなに見てもらいたいかなんなのかってところだろうからさ!!」
私がそう言って、天音の方をポンと叩くと、天音は私の手をバシッと弾いた。
「触んな」
天音はそう言ってその場を立ち去った。廊下には私だけが取り残された。
「クソッ」
私は地面を蹴り飛ばす。そして、旧校舎へ走る。誰も来ないような空間で私はため息を一つ吐く。
「私のせーなのかなぁ……」
私はポツリとそう呟く。だけど、いまさらここで引き下がるわけにもいかない。すると、ポタポタと涙が出てきた。
「ゆいなんか………」

「死んじゃえ」

私がそう言った瞬間、背筋が凍りつく感覚に襲われた。
(言ってはいけないこと言った……っ)
でもその感覚はすぐに治った。しかし、それと同時に別の感覚が生まれ始める。
「あー…これも全部ゆいのせい」
私はそう言った。そのまま、教室に戻る。教室に戻ると
「瑠奈〜なんかあったの?」
と友達に聞かれた。
「ちょっと…ゆいにされたこと思い出して…やっぱ…周回は私に対するいじめについてで開いてほしかったな…」
私がそう言うと、みんなは私に群がり始めた。
「そうだったんだ……瑠奈は三崎さんよりも全然可愛いしね〜」
「そうそう…二人を比べると断然瑠奈だよ〜!」
「ほんっと、可愛いし…それにしてもいじめられてたんだね…」
私はそう言われて頷く。
「いじめってやっぱりどうやっても無くならないのかな?」
私はそう聞かれて首を傾げる。今の時点では何も言えない。

帰りのホームルームになり、荷物を用意していると先生が入ってきた。
「今からいじめアンケートをやる。全員座って」
みんなはざわつきながらも自席に座る。アンケートの用紙が配られ、内容に目を通す。
『あなたはいじめられたことがありますか?
いじめられたことがある人は、その経験について詳しく書いてください
あなたは人をいじめたことがありますか?
いじめたことがある人は、その経験について詳しく書いてください
あなたはいじめられているのを見たことがありますか?
見たことがある人は、その状況について詳しく書いてください』
内容は典型的なものだった。私は全てにいいえをつける。しかし、一問目の質問をもう一度読んだとき、手が止まる。
(これで…ゆいのことを書けば……)
私はそう思った。
きっと天音もそう思っているだろうと、私は天音のことをチラリと見る。すると、天音は何やら真剣にアンケートに答えてるっぽかった。
(さすが天音⭐︎)
私も天音を真似して、ゆいにされたことを全て書く。
(これで…ゆいの立場は終わり…自分が悪いし…私とか天音よりドジだしなんもできないし…)
私はそう思った。
アンケートの隙間に『こんなアンケートをとっていじめは無くなるんだろうか』という疑問を書き留めた。

「藤野さん、少しいいかしら?」
私はある日、先生に呼び止められた。きっと、ゆいにされたことに関しての確認だろう。
「今は全然いいですよ〜」
私がそう言ってにこやかに答えると、先生は鋭い目つきで私を見た。
(なんなの…)
そして、そのまま私は相談室に連れて行かれた。
(おかしい…状況確認程度ならわざわざ相談室に連れて行かない…じゃあ、なんなの?!)
私の心臓はどくどくと跳ねる。
あの子に言った悪口かな、あの子に対する態度かなと私は心配な気持ちになる。
「さ、座って」
私はそう言われて、静かに席に着く。すると、先生はまたまた鋭い目つきで私を見てきた。
「単刀直入に聞くけど…あなた、三崎さんをいじめてるんだって?」
そう言われて、私の心臓が跳ねる。
「し、知らないです…第一、されていたのは私だし…」
私がそう言うと、先生は
「青沢陸斗さんと日野天音さんのアンケートに書かれていたのよ。特に日野さんのは細かくね」
「えっ…」
私は絶句する。天音に裏切られていたこと、陸斗に気づかれていたことに。
「私だけじゃなくて天音もなんですよ…!」
私がそう言うと、先生は
「じゃあ、あなたもやったのね」
と言ってくる。
(返答間違えた…)
私は自分で自分の墓穴を掘っていたのだ。しかし、ここで先生に流されてしまっては、私の罪を認めたことになってしまう。
「アンケートに書いてあった通りのことを私はゆいにされたんです。それに、最初に始めようと私を誘ってきたのは日野さんなんです」
私がそう言うと、
「でも、日野さんのアンケートには主犯が日野さんからあなたに変わっていったって書いてあるけど?」
私はそう言われて押し黙る。
「とりあえず、あなたの言い分もまずは聞かないとねぇ…」
先生がそう言い、私は身を前に乗り出す。
「ゆいはっ…今年のクラス替えで彼氏と同じになれたんです…だけど、私と天音はなれなくて…彼氏としたかったこととかも叶わない…それなのに、ゆいは彼氏と〇〇したんだーって自慢ばっかりしてて…それで天音が文化祭の実行委員になり…そこでちょっと懲らしめようって話題を持ちかけたのが天音だったんです…」
私がそうぽそぽそと言うと、先生はなんとも言えない頷きをした。
「あなたも確かにそういうことをされたかもしれない。だけどね青沢さんと日野さんのアンケートに書いてあるの。あなたが三崎さんをいじめていたっていうことが」
そう言われて、私はカチンとくる。まるで、私がされたことはどうでもよくてゆいの方だけを心配しているような口調だったからだ。
「ふざけんなっ!なんで私はどうでもよくて、ゆいのことばっかりなわけ?!」
私がそう言うと、先生は私を冷たい目で見てきた。
(なんなの…なんなのよ!!)
私も先生のことを睨み返す。先生はやはりゆいのことだけが心配なのだ。
「ゆいは鈍いし、バカだし、普通のことをするにも時間がかかる、マイペースなのが本当にウザいっ!!!」
私が机を叩いてそう言うと、先生は頷く。
(やっとわかってもらえたかも…!)
私は淡い期待を抱く。しかし、先生は私のことを理解したのではなかった。
「やっぱりあなたは三崎さんをいじめていたのね。今の言葉がそれを裏付けている」
そう言われた。そして先生は「それに…」と付け加えた。
「アンケートでいじめがなくなるのだろうかとか書いてあるけど、現になくなりそうじゃない?」
そう言われて私は背筋が凍る感覚に襲われた。
「はぁっそんなことないし!!!ゆいなんかより私の方がなんでもできる優秀って感じじゃない?!」
私がそう言うと、
「人と比べていれば、いじめをしていいことになるの?」
と先生が聞いてきた。私は黙るしかなかった。先生のなんとも言えない気迫におされて。
そこから先生がいくつか質問をしてきた気がしたが、何も覚えていない。

それから私は不登校になった。
ゆいは現在、クラスに戻って馴染んでいるそう。クラスのみんなは私が敵だと思っているのだろう。
「ふざけんなっ…」
私は部屋で小さく呟く。暗く、じめっとしている部屋だった。

人と比べることでいじめを正当化しようとするかもしれない。
でも、人と比べるのはダメなのか?
一度、人と比べていじめを正当化してしまうとその人は自身が正しいと思い込んでしまう。
では、いじめはどうやったら無くなるのだろうか。