Ikikata〜君と私の違い〜

時はすぎ、七月。
文化祭の季節になった。
「文化祭かぁ〜」
今までは彼氏の駿とクラスが一緒だったから、二人で出し物をやったり、一緒に回ったりした。だけど、クラスが分かれてしまい、それができなくなった。
唯一、それができるのは、ゆいと陸斗だけだった。
(駿は一緒に回れるように考えてくれているし…)
私はゆいを羨むのをやめた。

「文化祭の実行委員を決めまーす!」
学級委員のゆいと陸斗が話し合いを進める。すると、立候補で天音が手を挙げた。
「私、やりたいです!」
天音が珍しく大きな声を出した。すると、みんなは拍手をした。男子で立候補があったのは、天音のことが好きなのでは、と噂をされている飯塚くんだった。
(あの天音が…実行委員だなんて…)
私は驚きで声が出なかった。なんだか、私だけなんの役割もないようで寂しくなった。

「天音さぁ…なんで立候補したの?」
私がそう聞くと、天音はニコッと笑った。
「葵と約束していたの!文化祭で実行委員を一緒にやろうって!それに、実行委員になれば、合同で出し物をやるとかっていうのもできそうだしね!」
天音はそう言ってくれた。きっとそれは、私に向けてだろう。私は天音の優しさに感動した。
「天音ぇっありがとう!」
私がそう言うと、天音は「えへへ」と笑った。すると、そこへゆいがやってきた。
「葵くんと実行委員やるの?私は陸斗と学級委員だからそういうのできないや…」
その言葉は私と天音の心に自慢として刻まれた。私は少し顔を顰める。すると、天音も俯いてそっぽを向いてしまった。
(空気が読めないのかな…それとも自慢したいのかな…?)
私はゆいのことを疑う。それはきっと天音もだろう。
「あ…瑠奈!文化祭で何やりたい?あっちで話さない?」
天音が気を利かせてそう言ってくれた。ゆいはポツンとそこに立っている。私は天音についていく。廊下を出て、角の人気のないところまで来た。すると、
「さっきのはないと思うんだよね…ちょっと信じられない…」
私も全く同じことを言おうとしていた。天音の額にはシワが刻まれている。相当頭に来ているらしい。
「天音、どうどう」
私がそういうと、天音は深呼吸をした。そして、
「ゆいの悪口はあまり言いたくないんだけど…流石にさっきのはないと思うんだよなぁ………」
天音はため息混じりに先ほどと同じことを言った。私も全く同じ気持ちだ。
「とりあえず、気づいてもらうしかないよね…」
天音は静かにそう言った。
(気づいてもらうって言ってもどうすれば…)
私のそういう心情を汲み取ったかのように天音は言った。
「ちょっとハブくとか?」
天音は軽い気持ちで言ってそうだった。だけど、私にそんなことはできない。
「それはちょっと……」
私がオドオドしていると、天音は、
「ハブくって言っても、文化祭の進行とかを学級委員に握らせないってコト」
と言った。私はその瞬間、
(それくらいならいいのかも…しれない……)
と思った。私はゆっくりと頷く。
「おっけー!任せて!」
天音は走って教室に行った。

それから私達3人はできるだけ普通に過ごした。
ゆいはきっとおかしいなんて微塵も思っていないだろう。しかし、私と天音は文化祭の話のたびにゆいを外してきた。
本人はなんと思っていなそうだが。

「今日は文化祭で何をやるか決めます!」
天音はクラスみんなの前でそう宣言した。天音は私にチラリと目配せする。私は軽く頷く。
天音がみんなに聞いたとき、真っ先に学級委員であるゆいが手をあげた。これは私たちが狙っていたことだったが。
「決め方から決めた方がいいんじゃないかな?」
彼女の提案を聞いて、みんな頷いている。しかし、ここで終われる私たちじゃない。
「とりあえず出さないことにはそんなの決めたって意味ないんじゃない?一つしか案が出ないかもしれないし」
天音はスパッとそういった。すると、ゆいは静かに席に座った。周囲の数人の人たちが「でしゃばりすぎだからじゃない?」とか「ま、それはそうだよね。日野さんの言っていることに納得」と口々にいった。
ゆいは微妙な表情を浮かべている。
「はいはーい。こんな話は置いといて、文化祭に何をやりたいですか〜?」
天音がそうみんなに問いかけた瞬間、みんなは
「カフェ!」「メイドカフェ!」「お化け屋敷」「たこ焼き」「パンケーキ!」
などなど…多くの案が出てきた。
結局、その中から多数決を取ることになった。すると、カフェが多かった。みんなはこれからどんなカフェを作っていくのか楽しげに話していた。

「瑠奈と天音、なんかおかしくない?」
ゆいにそう聞かれたのは今日の放課後だった。きっと、あの話し合いでそう思ったのだろう。
「別におかしくないんですけど」
私はそういった。すると、天音も「私も瑠奈に同感」と言った。
「なんか、文化祭の話になると、話を変えてくるじゃん」
ゆいはそう一言言った。私と天音はゆいに向き合う。
「じゃあ、なんでかを考えたことある?」
私が静かにそう聞くと、ゆいは首を傾げた。
「わかってないなら話にならないよ」
天音はきつい一言を浴びせる。

最初のうちは、文化祭の話でハブくのはよくないと思っていた。だけど、自慢が悪化していくゆいと、日々の天音との愚痴でそれが当たり前だと思うようになった。

「直すからっ教えて…っ」
ゆいは半分泣きながらそう言った。だけど、私の日々の怒りは収まらない。
「彼氏と同じクラスだからって散々自慢されて…ベタベタくっつける最高〜!みたいなアピールされて…」
「同じクラスになれなかった私たちの気持ちわかってるの?」
私たちがそう責めると、ゆいは泣き出した。
「ごめん…っ…ごめん…っ」
ただただそう言った。だけど、そんな謝罪、私たちの心には響かない。

「彼氏と同じクラスだからって調子乗んなよ」

私はそう言って、その場を立ち去った。ふと、後ろを振り返ると、絶望しているゆいが見えた。
(ふん…自分が悪いのよね…)

今覚えば、ゆいにとって自慢できることではなかったのかもしれない。だけど、私と天音はそれを責めたて、ひどいことをしてしまったのだ。

「バカじゃないの?」
「ほんと笑ウケるんだけど笑」
私と天音はゆいを責めた。毎日のように。今まで散々、そんな思いをしてきたのだから別にいいだろうという気持ちが勝った。
(ゆい…ほんとバカな人……)
私は心の中でクスッと笑った。

『私たちに何されても、陸斗とか周りの人に言うなよ!?そしたら、縁切るから』

私と天音は過去にゆいにそう言った。それは、二週間ほど前だろうか。
(結局、ゆいは反省もしなかったのね…)
日々、痛めつけられ、表情が曇っていくゆいを見て、陸斗は、
「大丈夫…?ゆい…?」
と問いかけている。だけど、私たちは知らんぷりをする。
(なんで陸斗はゆいのことを気にかけてるのよ…)
私が心の中で言うと、天音が近づいてきた。何やら深刻そうな顔だ。
「どうしたの…天音…?」
私が恐る恐る聞くと、天音は肩を少し震わせながら話し始めた。
「葵にゆいのこといじめてるってばれたかも…」
天音は涙を流している。私は天音の肩をさすりながら相槌を打った。すると、周囲の男子が近づいてきた。
「どうしたの…?日野さん、大丈夫?」
「何かあったの…?」
みんなが口々に聞いてきた。すると、私はいいことを思いついたのだ。
「ねぇ、天音、この際だから、ゆいのせいにしちゃわない?ゆいに彼氏が同じクラスで最高っていう自慢ばかりされて、自分が惨めになってきたのって……」
すると、天音は一瞬、表情を曇らせた。しかし、周囲の人たちをチラリと見て、私に向き直る。そして、小さく頷いた。
「実は…ゆいのせいなの……。私、私だって彼氏と一緒に学級委員やりたかったし…なのに…毎日のように彼氏と同じクラスで最高〜みたいな話ばっかりされて…」
天音が涙をすらすらと流した。すると、全員の視線はゆいに向く。
「三崎さん、三崎さんってそんな人だっけ…?」
「そんな自慢ばっかりするような人だったんだ……」
みんなの考えは、ゆいへの期待から、ゆいへの敵対へと変わっていく。ゆいはその中心で「違う!違うの!そんなつもりじゃなかったし…それにっ…」と何か言っている。
私はその様子を遠くから眺める。すると、陸斗が私に近づいてきた。
「なぁ…ゆいのあれ…本当なのかよ……?」
私はそう聞かれて一瞬迷った。そうだよと答えてしまったら、ゆいは最愛に彼氏を失うかもしれない。しかし、私が違うよと言うと天音に被害が出る。
「そ…そうだよ……」
少しの抵抗を残しつつそう言った。私はその瞬間、一つの足枷が外れたような開放感を感じたにだった。