瞬夏終冬(しゅんかしゅうとう)

『もしもし』

「……」

『あれ、繋がってないのかな。これ葉くんの携帯だよね……うん、合ってる。ねぇ、聞こえてる? もしもーし』

「聞こえてるよ。ごめん、着拒されてたから周から電話が来るとは思ってなくて」

『はは、だよね。もう解除したよ』

「元気にしてたか。ちゃんと飯食ってんのか。姉ちゃんたちと何か話したか。そうだ、学校はどうしたんだよ」

『はいはいはい、ちょっとストップ。いっぺんに言われてもどれから答えたらいいのかわかんないし』

「あー……ごめん」

「ごめんじゃない言葉を聞きたいな」

「そうだよな、ごめん」

『ほら、またごめんって言った。次言ったら切るからね』

「せっかく着拒解除してもらったのに、それはちょっと勘弁して。出来るだけ気を付けるから」

『ん』

「……元気にしてたか。て、俺が言うなって話だけど」

『本当だよ。よりにもよって雨の日にあんな話することなくない? 僕、びっちゃびちゃで帰ったんだからね。風邪ひかなかったのは奇跡だよ』

「いや、それもそうなんだけど、8月いっぱいまでは続けるって言った癖に、破るようなことになったから」

『どうせ花ちゃんが何か言ったんでしょ』

「姉ちゃんから聞いたのか」

『直接は聞いてないけど、あの日、朝起きたら花ちゃんがいなかったんだよね。父さんも父さんでやたら僕に葉くんのこと聞いてくるから、あ、これは父さんと花ちゃんの間で僕と葉くんについて何か話が上がったんだなと思って』

「水族館から帰って来た時のお前の様子が変だったって、姉ちゃん言ってたぞ」

『そうなの? あれかな、僕のこと好きなのに終わらせないと曲が書けないとか、葉くんが意味わかんないこと言うから『何でだよ』て凹んでたからかも』

「お前、あの時そんな風に思ってたのかよ」

『思うでしょ、そりゃ。ずっと好きだったヒトから好きって言ってもらえたんだよ。もうそれ両想いってことじゃん。だったら恋愛ごっこも無期限延長にしようよってなるのが普通なのに、やっぱり葉くんはひどいなぁと思ったよ』

「あー……無期限延長ね。なるほど、その考えは全く出てこなかったな」

『僕の前ではちゃんとした大人でいようとしてくれたのかもだけど、あのタイミングでそんなの求めてなかったし、葉くんの頭の中にある正しい大人像みたいなものも僕じゃ壊せないのかって、ちょっと落ち込んだよね』

「世間一般が言うところの正しさなんて、俺の中ではだいぶ崩れてたけどな」

『……まぁ、そういうのとか色々考えてたらなんか腹が立ってきてさ。だったら外堀から埋めてみようと思って、父さんに言ったんだよ」

「何を」

『葉くんとお試しで付き合ってるって』

「おいおいおい! ちょ、おま、言い方……いやまぁ、そう言えなくもないけど、それにしたってお試しって言葉は……えー……?」

『動揺してる?』

「してる。めちゃくちゃしてるわ。お前が目の前にいたら頭はたいてるぞ。もうそれすんごい感じ悪いじゃん、俺。自分の息子を弄もてあそびやがってって思われたんだろうな……マジで印象悪すぎだろ」

『今、葉くんが頭抱えてる姿を想像してるけど、合ってるかな』

「大正解だよ」

『父さんさ、一瞬動きが止まってびっくりしてたけど、その後は僕の話を聞こうとしてくれたんだよね』

「そうなのか」

『花ちゃんも帰って来てから僕と話したいって言うし、じゃあもう全員思ってることを話そうってなって。今まであんな風に3人で顔見ながら話すことなんてなかったから、新鮮だったなぁ』

「他人事みたいに話してるけど、お前はちゃんと言いたいことを言えたのか」

『んー、多分』

「多分て」

『だって急にセッティングされても困るって思ったのも本音だし。あ、でも僕が男の人しか好きになれないことは、二人とも分かってたっぽい』

「姉ちゃんもそんなようなことは言ってたよ」

『やっぱバレてたんだね。花ちゃん鋭いなぁ』

「学校に行けなくなった理由も話したのか」

『うん。ふたりともめちゃくちゃショック受けてた。花ちゃんなんて『うちの子を何だと思ってんの!』て、その子の家に乗り込むんじゃないかって勢いで怒り狂うし、ちょっと大変だったな』

「そのテンション、想像出来るわ」

『父さんと2人で止めたけど、父さんだって手が震えてたしね。その後、父さんも花ちゃんも僕のこと羽交い絞めかってぐらいの力で抱き締めてくれて、泣きながら謝ってくるんだよ。別に2人は何も悪くないのにね』

「親として気付けなかった不甲斐なさに対してだろ」

『自分の親が怒ったり泣いたりしながら、僕のことをぎゅうぎゅうにしてるところを想像したら、何か段々面白くなってきちゃってさ。もういいかって思えたんだ』

「……そうか」

『結局、高校のことも花ちゃんが『そんな子たちがいるところ、行く必要ない!』て退学届を叩きつけてさ。恰好良かったなぁ、あれは』

「分かる。俺も姉ちゃんのそういうところ凄すげぇなって思うもん」

『葉くんにも見習って欲しいよ』

「ははは。ていうか、今お前、どうしてんの」

『別のところに通うことも考えたけど、今は通信制の高校で勉強してるよ。どの科目の単位を取るかとか自分であれこれ決められるし、学校に行く日も週1とか週3とか選べるのが僕には合ってたみたい』

「楽しく通えてるんだな」

『うん、楽しいよ。あ、そうそう。それでさ、葉くん』

「何」

『僕と葉くんの話に戻るんだけどさ』

「うん」

『父さんと花ちゃんに言われたんだよ。僕が大学を卒業したら色々好きにしていいって』

「好きにしていいとは」

『だから、僕が葉くんと付き合おうが、今の家を出て葉くんのとこで一緒に住もうが自由にしていいってこと」

「俺のいないところで、そんな話になってんのかよ」

『そうだよ。葉くんがいることで僕がいかに頑張れるか、葉くんという存在の素晴らしさについて、身振り手振りを交えながら真剣にプレゼンしたからね』

「それ、見たいような見たくないような複雑な気分だわ」

『まぁ、認めてもらったって意味ではプレゼン成功になるんだろうけど、条件があるって言われた』

「条件?」

『大学卒業するまでは、会っちゃダメって』

「お前、急に箱入りになったな……」

『ね。今まで散々葉くんのとこに行きまくっても何も言わなかったのに今更何でって僕も思ったんだけどさ、花ちゃんが言うんだよ。『今までずっと葉ちゃんのところにいて、この先も葉ちゃんと生きるのなら、せめて大学を卒業するまでの時間は私たちと過ごして、たくさん話そう』て』

「……そうか」

『そんなこと言われたら、もう条件呑むしかないじゃん。そういう訳でさ、葉くん』

「ん」

『あんなに『逢いたい』て言ってくれたのに、会えるのはもう少し先になりそう。ごめん』

「……謝んなよ。たかが数年だろ。俺はウミガメよりも長く生きるつもりだから問題ないし。ていうか、サラッと曲の話をするな」

『じゃあ今から半日掛けてがっつり感想を述べてもいいかな』

「恥ずかしさに耐えられなくなるから止めてくれ」

『公式チャンネルから通知が来た時、本当言うとちょっと開くのが怖かったんだ。葉くんがどんな歌を書いたのか今すぐ聴きたいと思ったけど、もう会えないかもしれないことを改めて突き付けられるような気がしてさ』

「聴いてみて、どう思った」

『最初に聴いた時は『失恋の歌じゃないじゃん!』『じゃあ、あのコンビニ前でのサヨナラは何だったんだよ』て動画にツッコんだ』

「あー、そうだよなぁ。そうなるよなぁ」

『……でも、それから何回も繰り返し聴いたよ。聴く度に葉くんとの色んなことを思い出した。たった2ヶ月のことなのに、僕の中で凄く大切な2カ月だったんだなって思ったらさ』

「うん」

『やっぱり僕は葉くんのことが好きなんだって改めて気付かされたし、手放していい気持ちじゃないんだって思った』

「うん」

『あの曲が、葉くんの本当の気持ちって思っていいんだよね』

「いいよ」

『……了解。葉くん、最高の歌をありがとう』

「どういたしまして」

『あ、でも一個だけ不満がある』

「え、何だよ」

『何で葉くん、歌ってくんなかったの? ギターのメロディしかなかったじゃん』

「まぁ、あくまであれはデモだから。出来た曲を早く周に聴いて貰いたかったし歌詞も読んで欲しかったから、無理言ってああいう形で公開させてもらったんだよ。実際に映画に使う用のものは海津かいづがいい感じにアレンジしてるし、コラボ相手が綺麗な声で歌ってくれることになってる」

『ちょっと期待してたんだけどな』

「俺の歌うバージョンは、お前と会った時に直接歌ってやるよ」

『え、それ本当? 絶対だよ! やば、一気にテンション上がっちゃった』

「それまでお互い頑張ろうな」

『電話とかはしてもいいって』

「そりゃ良かった」

『……』

「……周? おーい」

『今、めちゃくちゃ葉くんに会いたいのに、会えないのが急に悲しくなってきた』

「え」

『だってさ、もう何も隠さなくていいし、お互いに好きって分かってるのにさ、離れてたら直接顔も見られないし、手も繋げないんだよ』

「……そうだな」

『葉くんに触りたいよ』

「……泣いてるのか」

『そうだよ、泣いてるよ』

「……ん? お前どこから掛けてるんだ」

『外』

「いや、それは分かってるんだけど、今うちの前を救急車が通ってったんだけどさ、そのサイレンの音が外と携帯の両方から聞こえるんだが」

『気のせいだよ』

「気のせいじゃない。ほら、今もまだ聞こえてる。お前、絶対うちの近くにいるだろ。どこだ、どこから掛けてる」

『言わない』

「言えよ。今すぐ行くから」

『ダメだよ、出て来ないで』

「お前まさか……うちの家のドアの前にいるんじゃないだろうな」

『いないよ』

「いや、間違いなくいるだろ。おい、ドアを押さえるな、開けらんないだろうが」

『今、葉くんの顔見たら父さんたちとの約束を破ることになるから絶対イヤだ』

「約束なんて、破るもんだ、ろ」

『力、強っ! 葉くんの正しさ、どこ行ったんだよ』

「そんなもん、お前の前じゃもうどうでもいいわ。顔見るぐらいいいだろ」

『とにかく会うのはダメったらダメ』

「何でだよ」

『こんなテンションで会ったら、顔見るだけじゃ絶対終われないもん。葉くんにベタベタ触りたいし、ゼロ距離でずっと一緒にいたくなる』

「俺は高校生には手を出さないってずっと言ってるだろ」

『葉くんは出さなくても僕が出しちゃうの。理性が働いてる内に言うこと聞いてよ、大人なんだから』

「……何なんだよ、お前。こんな時だけ都合良くヒトのことを大人とか言いやがって」

『ご理解いただけたなら幸いです』

「お前はズルい奴だな」

『それを言うなら葉くんもでしょ』

「電話とかメールとか、それだけでいいのか」

『いいか悪いかで言ったら圧倒的に良くはないけど、大学出るまでって期限が見えてるから耐える』

「じゃあさ、俺からひとつ提案していいか」

『何』

「会えない間、お前が寂しくならないように歌を書くから、聴いて欲しい」

『え』

「あの一曲だけじゃ落とし込めなかったことがまだいっぱいあるんだ。だから」

『でも、圭くん、あの曲を最後にするって言ってなかったっけ』

「あー、それな。何か久しぶりに俺と組んだのが楽しかったらしくて、俺ともっと色々やりたいとか言い出してナシになった」

『マジで! じゃあYKはまだ続くの?』

「そういうことになる」

『えー……! 嬉しい、めちゃくちゃ嬉しい……! ありがとう、本当にありがとう。僕の中のスペシャルサンクスの項目に圭くんの名前を刻むよ』

「お前と海津、そういうとこのノリが一緒だな」

『葉くんが大好きなところもね』

「海津に大好きとか思われてるの、何か嫌だ」

『あはは』

「まぁそんな訳で、これから俺が作る歌は全部お前に向けて作ってると思って欲しい」

『うわーうわー。いいのかな、そんな贅沢』

「俺は俺にしか出来ないことをやるから、お前はお前にしか出来ないことをやれよ」

『うん、わかった』

「それで、お前が大学を卒業したら、もう一度あの水族館に行こう。その頃にはとっくにリニューアルオープンしていて様子も変わってるだろうけど、水槽の前でやったあの告白からやり直したいんだ」

『ウミガメ、まだいてくれるかな』

「姉ちゃんが高校生の頃からの名物だからな。きっといるよ」

『そうだよね。じゃあ僕、そろそろ行くよ』

「ん」

『またね、葉くん』

「またな」