瞬夏終冬(しゅんかしゅうとう)

「ダッセェな、お前」
「は?」
「だってそうだろ。終わらせたくないならそう言やいいじゃん。何で意固地になってんのかさっぱりわからん。バカな上にダサいって笑えるわ。ははは」
「笑うなよ。自分でももうめちゃくちゃだって分かってんだから」
「いいねぇ」

 海津がにやりと笑う。

「冷静さが吹っ飛んでる今のお前、めっちゃいいよ。そういうの待ってたわ」
「面白がるなよ」
「心外だな。俺は喜んでんの。葉をこんな風にしてくれて、周には感謝だわ。曲が出たらスペシャルサンクスのところに名前書いとこ」
「それはやめろ」
「『付き合おう』って言えばいいのに」

 サラッと簡単に言ってくれる。

「俺が無理やりあいつに断ち切らせたんだぞ。そんなこと出来るか」
「お前のことだからどうせつまんねぇこと考えたんだろ。『男同士』とか『叔父と甥で恋愛なんてダメだ』とか、『姉ちゃんとこの家庭をぐちゃぐちゃにしたくない』とか」

 お前、千里眼かよ。

「そんなもん、俺からしたらマジでどうでもいい。愛とか恋とか、そういうので世の中の全員が賛成することなんてねぇんだから、考えるだけ時間と気持ちの無駄。好きなもんは好きなんだから仕方ねぇじゃん。恋愛なんてしないって決めたってしちゃうもんなんだからって、前言ったろ」
「確かに言ってたけど」
「ほら、今すぐ周に電話しろ」

 俺のスマートフォンに手を伸ばしかけた海津の動きを制しながら、俺は答える。

「無理」
「何でだよ」
「着拒されてる。メールも何もかも全部ブロックされてるから、俺から連絡取る手段はゼロなの」

 海津の動きが一瞬止まり、次の瞬間、爆笑された。

「ふは……ははは……マジか……着拒……! 周、やるじゃん。思ってた以上にしたたかでウケるわ。いやもうお前がバカ過ぎて笑いが止まんねぇ」
「着拒のどこに大笑いする要素があんだよ」

 着信拒否をされている事実に少なからずダメージを受けていただけに、俺は涙を流しながら笑う海津に腹が立った。

「おい、笑うなって」
「お前さ、何で周がそうまでしてお前との連絡手段を絶ったのか、わかってんのか」
「え」
「歌詞で示せって言ってんだよ、あいつは」
「……え?」

 俺は、周が俺のことなど思い出したくないから拒絶したんだと考えていた。
 いや、でも、まさか。

「電話もメールも何もかも、お前が直接あいつと連絡を取れるものは封じられてんだろ。でもお前にはお前にしか出来ない方法があるじゃねぇか」
「……『YK』の動画チャンネルか」
「それ。周はそこからお前の歌詞が流れてくるのを待ってるんじゃないかと俺は思うぞ」

 全く更新されていないにも関わらず、暇さえあれば俺たちのチャンネルを開いていた周。
 あいつは自分とのことを綴った歌詞が出来ることを、心待ちにしていた。
 俺が気持ちを伝えるために使える手段は、確かにこれしかないだろう。

 でも。

「今度作る曲は、映画に使われるかもしれないんだよな。周に聴かせるためだけとか、そんな個人的な想いで作っちゃっていいのか。お前の最期の仕事になるんだろ」

 海津は「何言ってんだ」という顔をして答える。

「全然OK。歌ってそういうもんじゃね?」

 こいつの考え方は本当に明快だ。

「なりふり構ってられなくて恋愛馬鹿になってるお前の歌詞なんて、ただただ面白いわ。万人にウケる曲なんて俺は求めてねぇから、安心して好きなだけ書け」

 今この瞬間ほど、俺は海津がいてくれて良かったと思ったことはない。

「お前、実はいいヤツだったんだな」
「礼は仕事で返せ」

 久しぶりに気持ちが軽い。
 うんと手足を伸ばして、俺は思い切り伸びをする。

「……俺、書くわ」
「おう」

 そう言うと、海津は心の底から嬉しそうに笑った。