ポストスプリクト・ラブ


 中華街で食事を済ませると、再びバスに乗り込み、今度は片瀬江ノ島駅へと出発した。先に到着していた俺達は、一番後ろの座席を三人で陣取り、最後にやってきた匠たちのグループは、最前列の席に座っているのが見えた。

 窓側の特権とも言える、窓の外を眺めながら、俺は中華で満たされた腹を撫でる。

 窓ガラス越しに見える空は、雲一つない快晴で、まるで初夏の如く空も気温も高い。真夏日和とまではいかないものの、街には半袖の人が目立ち、外国人観光客に至ってはタンクトップの人も珍しくない。

「腹いっぱいで眠くなったか?」

 窓の外をぼんやりと眺めていると、瀬尾が俺の脇腹を楽しそうに突く。俺はその手を「やめろ」とはたき落として、首を横に振った。

「そんなおこちゃまじゃないっス」
「目が半分になってんぞ」
「まじで?」

 確かに頭の芯は熱さでぼんやりしている気がする。けれど、特に眠いという事はない——が、もしかしたら朝からあちこちへと動いて疲れているのかもしれない。

 それに、考える事も朝から多かった気がする。

 俺は最前列へと視線を流して、頭の中で匠の顔を思い浮かべた。中学二年生の頃の顔と、今の顔。どちらも中身はやはり匠のままで――でも、外見はまるで別人のようで。

 俺は匠のことを忘れられていなくて……。

 俺は溜め息を吐くと、ちょっと乗り物酔いかもしれないと嘘を吐いて、目を閉じた。二人の心配してくれる声に申し訳なさを感じながら、閉じた瞼の裏で、捨てきる事の出来なかった恋の欠片に、自問自答する。

 終わったはずの恋の賞味期限は、いつまでだろうか。そもそも終わっているならば、もうゴミ箱に捨てるだけか――なんて考えながら、それでも捨てられない恋の空箱を握りしめている自分を、痛切に自覚した。