中華街に着くまで、俺たちは離れていた一年半の話をしていた。勿論恋愛についての話は避けていたが、それでも話すことは山のようにあった。受験や日々の生活、ゲームのこと。話題は一瞬も尽きなかった。
だから、バスが到着を告げた時、不意に寂しさが胸を掠めた。
「もう着いたのか」
バスが停車して、周りが下車の準備で立ち上がり始めると、匠が不満そうに呟く。俺はそれが少しだけ嬉しくて頷いて同意すると、
「最後に出ようよ」
と言われた。その言葉に、とろみのある甘さを感じてしまったのは、俺の思い違いだろうか。すぐに返事ができずに迷っていると、背後から、
「高岡! いくぞ!」
と、千葉に声をかけられた。
「えっと……」
「俺最後に降りるから、先行って。気ィ付けて行って来な」
迷っている内に軽く背中を叩かれ、俺は促されるように、匠の隣の席から立ち上がる。
「匠も気をつけてね。楽しんで」
「おう、またな」
俺は一握りくらいの名残惜しい気持ちを抑えながら、匠に手を振った。
「あれ? 御子柴は?」
「最後に降りるって」
匠に見送られながらバスから降りると、俺達は遠足や観光客で賑わっている中華街へと向かった。
食べ歩きの中華料理店が並ぶ、メインの大通りは真っ直ぐ歩けないほど混雑していた。俺たちは通りを歩きながら、すぐに寄り道をして、お目当ての焼き小籠包や中華まん、ふかひれスープなどを頬張る。朝食を少なめに取ってきた分、俺たちは思い切り食べ歩きを楽しんだ。
それから何軒巡ったのだろう、丁度本日二つ目の肉まんを半分に割ったところで、制服のズボンに差し込んでいたスマホが震えた。バスから降りて、三十分くらい経っただろうか。匠からメッセージだ。
どうしたのかと思い、メッセージを開けば、
『なんか優雅なところに連れて来られた』
という文章と一緒に、アイスコーヒーの入った透明カップの写真が届いた。
背景には青い空と、横浜の海が広がっている。海には白い大きな橋が渡っていて、開放感とオシャレ感が良く伝わってくる写真だ。少し気になることがあるとすると、写真の隅に女の子の可愛い爪や、匠のグループの人達の姿がちらちらと隅で見切れて映っているところだろうか。
少しもやっとした気持ちになりつつも、
『いいね! 気持ちよさそう!』
と、俺は返事を返した。
それから肉まんを半分食べ進めると、残りの半分を片手に持ち、背後に吊るされた赤提灯の連なりが入るように写真を撮る。匠のように綺麗に撮れる自信はないけれど、ふっくらとした厚めの皮の中に、ぎっちりと収まる肉の餡が良く撮れた気がする。
俺はそれを匠へのメッセージに添えて送ると、すぐに既読が付いた。
『めちゃくちゃうまそう! 俺も食いたい』
『一緒に居たら、半分こできたのにね』
俺はそこまでメッセージを書ききると、すぐに全文を消して、
『すごく美味しかったよ、匠たちもこっちにくればよかったのに』
と書き直して、送信を押した。
あまりにも自分の気持ちに素直になりすぎている文章は、恥ずかしいというよりも、なんだかいい気になっているみたいで気が引ける。俺はスマホをポケットにしまうと、次はお土産に行こうという二人に挟まれ、人で賑わう通りの中に紛れ込んだ。



