お互いそんな子どもでもないし、すぐにケロリと元に戻るだろうなんて、何処かで安直に考えていた。
でも、現実は違った。
あの日以来、匠の周りに人は集まらない。
元ネタとなる投稿はアカウントごと凍結を食らったようではあったので、それ以上の被害はないものの、余波は確実に匠を追い込んでいた。
匠含めて五人のグループである彼らは、安田以外が遠巻きに匠を気にしているようではあるが、仲違いをしている安田は、一切匠を視界の中に入れようとはしない頑固さを見せた。女子二人が気にして匠に話しかけるような場面もあったが、元々笑顔を振りまくようなタイプでもなければ、話を長引かせるような努力をするタイプでもない。彼との続かない会話に諦めて、二人は匠の席をそっと後にしていた。
見ている限り、全てが悪循環に働いている。俺は一人でぼんやりとしている匠の背中を見つめた。もちろん、振り返ったりはしてこない。あれ以来目も合わないから挨拶もしてない。
こちらから声をかけても、なぜか気のない返事ばかりを返されてしまい、とりつく島がないのだ。きっと、俺に迷惑かけたくないとか、そんなことを考えているに違いない。
「御子柴、大丈夫か?」
不意に瀬尾に問われて、俺は返事を迷った。大丈夫、とは言い難いけれど、当人がどうしたいのかも何を考えているのかも、はっきりしたところは分からない。大丈夫か? と問えば「別に何でもない」と返事が返ってくるので、何ともしようがない。
せめて、彼が考えていることを、直接聞けたら。
俺はふと、待ってばかりだった中学二年の頃を思い出した。
こうやって、俺たちは離れたよな……。関わり方が分からなくなったと言って。
強い後悔の念が、苦々しく胸の奥からじわりと滲んできた。
「……大丈夫って、言うと思うけど」
と、瀬尾に返してから、俺は席を立った。
——眺めているだけでは変わらない。
動かなければ変わらないのは、俺も匠も一緒だ。
俺は匠の席の前の、空白の椅子を引いた。俯いていた匠が、耳からワイヤレスのイヤホンを外して顔を上げる。目の前の俺を見ると、どこか強張っていた表情が解けるような、淡い変化が見て取れた。
「凛、どした?」
俺と認識して、明らかに表情を緩めてくれるのが、何となく頼られているみたいで嬉しい。
「何聴いてるの?」
「……ん、聴く?」
そう言いながら差し出してくれた片方を、耳に入れると、中学二年の頃に二人でハマっていた洋楽が流れていた。
「あ、これ……、懐かしいね」
「な、すげえ聴いてたよな」
二人でロックにハマって、動画サイトのMVやサブスクを漁り、お互い競うようにおすすめ曲を探していたことを思い出す。
「これ、凛が見つけてきた曲だったよな」
「そうだっけ? 匠じゃない?」
「いーや、凛だった」
なぜか譲らない匠の変わらない表情に、少しだけ安心しながら、ねえ、と声をかける。彼はスマホに落としていた視線を少しだけ上げた。
「匠、江ノ島行かない?」
「え、今その話?」
予想外だったらしい俺の誘いに、匠が首を傾げる。
それはそうだろう、突然話しかけてきたと思えば、話の途中でいきなり江の島に行かない? という誘いである。
「水族館の約束、忘れてないよな?」
そう告げると、彼は戸惑うように視線をさ迷わせた。しかしすぐに俺の真意を確かめるように、じっくりとこちらを見つめ返してから、
「行く」
と、小さく頷いてくれた。



