『好きなこと』を職業にするのは、わがままなことなのか?

十月。放課後の画室の窓から差し込む斜光は、長く、引き延ばされた影を床に落とし、受験生たちの焦燥感をさらに煽り立てていた。
この時期になると、周囲の浪人生たちの絵には、現役生には到底真似できない「時間の厚み」がはっきりと現れ始める。彼らは何千枚ものデッサンを重ねてきた経験から、どんなモチーフが来ても動じることなく、自らのスタイルを完璧にコントロールしていた。

「今日の課題は『自己の内面を投影した静物画』だ。木製パレット、割れた電球、そして一本の枯れ木。制限時間は6時間。現役生、お前たちの手の遅さは致命傷になるぞ」

佐伯先生の合図とともに、一斉に筆が走り出す。
私は、真っ白なキャンバスを前に、激しい吐き気に襲われていた。
描かなければならない。けれど、筆を動かそうとするたびに、佐伯先生の「守りに入っている」という言葉が頭をよぎり、指先が凍りついたように動かなくなる。

『私の内面って何? 何を描けば、あの夏のような剥き出しの絵になるの?』

考えれば考えるほど、パレットの上の絵の具は濁り、キャンバスの上には、何の脈絡もないただの「汚い色の塊」が積み上がっていった。
横を見ると、結衣は狂ったようにキャンバスに向かっていたが、その筆先はどこか迷いを含んでおり、彼女の強みであった鋭い線が、何度も別の色で塗り潰されていた。

「……っ、もう無理」

結衣が小さく、絶望的な声を漏らした。彼女は筆を床に落とし、自分の両手で顔を覆って座り込んでしまった。
画室の誰も、彼女を助けようとはしない。ここは戦場であり、倒れた者はそのまま踏みつけられていくだけの場所だからだ。

私は結衣の姿を見つめ、それから自分の濁りきった画面を見た。
私たちの夏は、ただの幻だったのだろうか。あの廃校の教室で、お互いの魂をぶつけ合って掴み取ったはずの「私たちの色彩」は、この現実の受験というシステムの前に、これほどまでに無力に霧散してしまうものなのだろうか。

「宮下、香川。ちょっと面談室に来い」

作業時間の途中で、佐伯先生が私たちを呼び出した。
私たちは力ない足取りで、画室の奥にある狭い面談室へと向かった。