流れ星見つけた

 その日、クラスの雰囲気は心なしかアンナの目にはそわそわして見えました。

 アンナもまた、夜が待ち遠しくてたまりません。
 早くみんなに会いたい。
 授業は上の空、教室の窓の外を見ては、早く日が落ちるのを待ちました。

 やがて夜になり、いつものように食堂で夕食をすませ、部屋に入りました。

 アンナは窓を開けて誰かに話しかけたい気持ちになりました。しかし今日は窓越しの会話はしない約束でした。もし今日このおしゃべりが大人達にばれてしまったら、すべてが台無しになってしまうからです。

 アンナは机の上の明かりを消し、ベッドの中でじっと約束の時間が来るのを待ちました。

 胸がドキドキしています。

 午後八時の鐘の音がひびきました。
 耳をすますと守衛が廊下を歩く靴音が聞こえます。

 アンナは目をじっとつむったまま時間が流れるのを待ちました。

 しばらくしてタンスの上の花時計を見ると、時計の針は午後八時十五分を指していました。

 アンナはベッドから静かに抜け出し、靴をはき、淡いピンク色のカーディガンをはおりました。

 ゆっくり部屋のドアに近づき、耳を当て、廊下に足音が聞こえないかをたしかめます。
 聞こえるのは自分の息を吸う音とはく音だけです。

 ドアをそっと開き左右を見渡すと、暗い廊下は静まりかえっています。
 アンナはさらにドアを開き、すり抜けるように廊下に出ると、そっとやさしくドアを閉めました。

 いよいよ未知の冒険が始まる、そんな気持ちでした。

 見なれた石の廊下も真夜中になると、昼間とはまったく違う廊下に見えます。

 青白い月明かりが細い窓から差しこみ、冷たい石造りの壁に光りの筋を作っています。

 アンナは一歩一歩あたりをうかがいながら、物音を立てないように歩きました。

 守衛の歩くたびカツカツ音が鳴るブーツとは違い、アンナがはいている部屋用の靴は底が布でできているので、早歩きで歩いても音はひびきません。

 廊下の突き当りまで来ると、今度は壁に背中をくっつけながら、まるく弧を描いて下まで続く階段を降りていきました。

 階段を下りてしばらく薄暗い廊下を歩くと、回廊が見えてきました。
 片側が石の壁、もう片側は円柱がきれいに並んでいます。

 円柱の外は中庭で、手入れの行きとどいた庭を、月明かりが照らしています。

(みんな本当に来るかしら)

 胸がきゅうっと、しめつけられるように心細さが込み上げてきます。
 円柱をひとつ、またひとつ通りすぎると、やがて礼拝堂の扉が見えてきました。

 アンナはかがみこんでそっと近付き、ゆっくりと礼拝堂の扉を開けました。
 
 中に入るとすぐ近くで声がしたので、アンナは心臓が止まりそうになりました。

「こっちだよ」

 男の子がアンナより低い姿勢で、長い机のかげから手まねきしています。カチカチになった肩の力がぬけ、胸の中の不安がきえてゆきました。

「ぼくはドクター。君は?」

 メガネをかけた細身の男の子が、アンナにやさしく笑いかけます。

「わたしはアクア」

 アンナがドクターの手をにぎってついていくと、もう何人かの子が先に来ていました。
 子供達はおたがい声にならないくらい小さなささやき声でよろこびあいました。

「こんばんは。わたしはリジー。あなたは?」

 アンナの後からひとり、またひとりと人数は増えていきました。
 アンナからは部屋の窓が遠くて声が届かないけれど、他に仲間だった子もいたようです。
 礼拝堂には全部で八人の子供が集まりました。

「やっぱりあなたがアクアだったのね。ここで朝のお祈りをする時、私、いつもあなたの後ろの席なのよ。知ってた?」

 聞き覚えのある声だと思ってふり返ってみると、アンナの隣の部屋から聞こえる女の子の声です。教室の席でななめ前に座っていたはちみつ色の髪の女の子でした。

「ううん、知らなかったわ。でも、わたしの席は一番後ろだから、後ろ姿はいつも見てたの。わたしもあなたがハニーじゃないかしらって思ってた」

 いつもの制服とは違う格好、ほがらかな表情。子供達は身をよせ合い、まるで再会を懐かしむかのように喜びました。
 机と机の狭い間に、たくさんの笑顔。

 子供たちは計画の成功に夢中になり、時間がたつのを忘れておしゃべりしました。

 その時です。

 礼拝堂の入口の、すぐ横にある古い柱時計が九時の鐘を打ちました。と、ほぼ同時に入口の扉が開く音がしました。

 子供達はおどろいて口をふさぎ、息をひそめました。