もしもこの気持ちを青春というのなら私は青春なんていらないと思った

 次の日。
 二日続けて胃が痛いと言ったら、ママに病院に連れて行かれそうな気がして、いつもと同じ時間に家を出た。
 どこかで時間を潰そうか……。
 制服を着た女子高生が時間を潰せるところなんて、ない。
 店に入っても不審がられて、悪目立ちするのが関の山。
 仕方なく最寄りの駅に向かう。
 階段を登りホームに着くと、いつもは電車の中にいるはずの春人君がいた。
「おはよ」
 いつものような微笑みを向けてくれる。
「おはよう」
 醜い自分がバレてしまわないかと、ハラハラする。
「凛華ちゃんが違う階段から登ってきて、すれ違ったらどうしようかと思ってたけど、勘が当たってよかった」
 いつものように寝癖だらけの髪。
 春人君はいつもと変わらない。
 ホームでは色々な音が混ざっているはずなのに、私の耳には春人君の言葉しか聞こえない。
 今、春人君は私に話しかけてくれている。
 一言も逃したくなかった。
 好きな人が、私に笑いかけてくれる。
 木漏れ日のようなものに包まれ、胸が暖かくなる。
「今日秋は先に行ったんだ。だから俺と二人だけの登校になっちゃうけど、大丈夫?」
 春人君が私の顔を覗き込む。
 綺麗な瞳が目に飛び込んでくる。
 その瞳があまりにも艶めいていたから、魅入られてしまいそうでフッと視線を逸らした。
「やっぱり、二人は嫌?」
 さらに顔を覗かれ、顔を横に向け春人君から逸らし下を向く。
 フッと春人君が笑う音がした。
「凛〜華ちゃん」
 ふざけたように名前を呼ばれた。
 春人君との距離が近いから、そう呼んでもらえたのかもと思うと、口角が上がって上がって。
 そんなだらしない顔を見られたくなくて、両手で顔を隠した。
「あはは」
 イタズラっぽく春人君が笑う感じがした。
 ホームに電車が到着するアナウンスが流れる。
「行くよ」
 片方の手首を掴まれ、入ってきた電車に乗った。
 一瞬、レモネードの香りがしたみたいだった。
 昨日、たった一日一緒に登校していないだけで、とても長い間一緒にいなかったようにも感じる。
 だから今日、一緒に登校できたことが本当に嬉しい。
 春人君の一言一言。
 見せてくれる表情。
 私に向けられる笑顔や困り顔。
 どれも可愛い。
  全部全部私だけに向けられたらな……と思ってしまい、自分は本当にわがままだとも思ってしまう。
 胸に小さくできたたくさんの棘に、いろんなほかほかする気持ちやチクチクする気持ち、モヤがかかった気持ち、感情が引っかかって取れなくなっていっていた。
 
 雪乃がインフルエンザで休んでいる間。
 家に帰ってきてから、毎日雪乃と電話で話をした。
 雪乃声は元気そうだったけど、時折咳き込むとなかなか止まらななかった。
 だからあまり長い間は話せない。
 家にお見舞いに行きたかったけど、雪乃は「うつすといけないから」と、行かせてもらえなかった。
 せめてテレビ電話にしたいと言っても「今、可愛くないからダメ」としてくれなかった。
 出席停止の期間が過ぎても、雪乃は学校に来なかった。
 少し拗らせてしまったって明るく言っていたけど、電話越しでもわかるほど無理して元気を装っているとわかる。 
 雪乃は私を避けている?
 思い当たるところはある。
 みんなで水族館に行った時、きっと私の様子がおかしかったのを、雪乃は感じ取ったんだ。
 雪乃としては大親友だと思っていた人が、自分に嫉妬していると気付いた時、どれだけショックだったか……。
 傷付いたが……。
 それでも電話で私と話をしてくれる雪乃は、優しいし大人。
 それに比べて私は……。
 私は……大切なものを失ったのかもしれない。