もしもこの気持ちを青春というのなら私は青春なんていらないと思った

 雪乃のいない学校は、本当につまらなかった。
 昼休み、弥生達が一緒にお弁当を食べようと言ってくれたけど、今日は一人で食べたい気分だった。
 いつも雪乃と一緒に座る、教室の窓際。
 運動場を眺めていると、いつもと変わらず、お弁当を早く食べ終わらせた男子達が、青春そのもののようにサッカーをしている姿がよく見える。
「あれが青春なんじゃないの?」
 つい雪乃がいる時と同じような音量で言ってしまい、大きな独り言になってしまう。
 独り言を誰かに聞かれていなかったかと周りを見渡す。
 みんな思い思いの話をしながらお弁当を食べていて、私のことを見ている人はいない。
 とりあえず独り言を話す痛い子だと気づかれていなくて、胸を撫で下ろす。
 それでも気分は晴れなくてはぁ〜と大きなため息が出て、また青春サッカー少年達を見た。
 私の思う青春は、このサッカー男子のようにキラキラしてて爽やかで、例えるならレモネードのような甘さと酸っぱさが入っているようなもの。
 でも弥生が今朝言ってたのは『ジレジレ感』
 全然キラキラしてないし爽やかでもない。
 レモネードの味なんて皆無。
 前に進みたいけど、進むのが怖いってなに?
 私は春人君との距離を進めたいのだろうか?
 考えてみて、たどり着いた答えは『そんなこと恐れ多い』だった。
 ただ見つめていただけの春人君と知り合いになれて、一緒に登校できる関係になって、時々みんなと一緒に遊びに行く。
 これ以上何をもとめるんだろう?
 求めてはダメなんだ。
 求めすぎては、壊れてしまう。
 またあのドロドロした気持ちとモヤが出てきて、苦しくなる。
 大親友で美人の雪乃にモヤっとしてしまう。
 あんなに大事な親友なのに……。
 今日は使われていない雪乃の席を見る。
 大きな口を開けて笑う雪乃や、私の名前を呼ぶ雪乃。
 幼稚園の頃からの大親友。
 何よりも大切な存在。
 なのに私は雪乃に対してモヤっとしてしまう。
 もしかして私は……。
「雪乃に、嫉妬、してる?」
 ショックだった。
 でも嫉妬してると思ったら、なんだかストンと腑に落ちた。
 モヤモヤしたり、胸が痛かったり、苦しかったり。
「私、雪乃に嫉妬してたんだ」
 春人君や秋人君との話で私の知らないことでも、雪乃は知っていてすぐに話ができる雪乃に。
 誰にでも優しくて美人で勉強もできて物知りな雪乃に。
 春人君の初恋の人に似ている雪乃に……私、嫉妬、してる。
 そして認めざるおえなかった。
 私が春人君のことを好きでいることを。
 春人君が好きだから、私を見てほしいと思う欲求が湧いて出てくる。
 身の程知らずで、欲深い自分が、本当に本当に醜いもののように思えてきた。

 学校の間も何度かラ◯ンしたけど、既読にもならない。
 半日雪乃と連絡がつかない。
 今までこんなことなかった。
 何がって言われるとわからないけど、漠然と嫌な予感がする。
 そして雪乃の家に来てしまった。
 体調が悪いのに家に行くなんてダメなのかもしれないけど、やっぱり雪乃が心配。
 いなかったら、そのまま帰ろう。
 雪乃の家のチャイムを鳴らす。
 数秒後、
「あら凛華ちゃん」
 モニターで私の姿を見たであろう雪乃のママの声が、インターホン越しに聞こえた。
「あの、雪乃にメールしたんですけど返信なくて……。雪乃大丈夫ですか?」
 学校を休んで、既読もつかないぐらい大変なのかもしれない。
 だからここで雪乃の様子を教えてもらえたら、そのまま帰ろう。
「ちょっと待ってて」
 インターホンが切れる音がし、少ししてから玄関から雪乃のママが出てきた。
「インフルエンザになっちゃってね、しばらく学校お休みしないとダメになっちゃったの」
 もしかして昨日しんどいのを我慢してたから、あんなに顔色悪かったのかもしれない。
 どうして気付いてあげられなかったの?
 もし雪乃が私の立場なら、絶対気付いてくれていた。
「今雪乃は寝てるの。でね、コレ、雪乃からの預かり物なの」
 白い封筒を手渡された。
 開けてみると、映画のチケットが二枚入っている。
 しかも作品は、春人君と見に行く予定だった映画。
「これ……」
「この映画、雪乃と行こうって言ってたけどしばらく行けなくて。でね雪乃が『凛華ちゃんは絶対お見舞いに来てくれるから、その時渡して欲しい』って。『春人君と一緒に行ってきて』って伝えて欲しいって頼まれてたの」
「……」
「あとね……」
 雪乃のママは続ける。
「『昨日は本当にごめんね』とも言っていたわ」
「雪乃……」
 それ以上、言葉が出なかった。
「本当は自分で渡したいけど、インフルエンザ移しちゃったらダメだから、来てくれたのに会えなくてごめんねって」
 言葉が出なかった。
 その代わり、涙で視界が歪んでくる。
「凛華ちゃん、雪乃と仲良くしてくれてありがとう」
 雪乃のママの目にも涙が浮かび、頬を伝うのを手で拭っている。
「雪乃ママまで泣かないで〜」
「だって止められないんですもの」
 お互いの泣き顔につられて、二人して泣いてしまう。
「雪乃、今は寝ているけど、凛華ちゃんがお見舞いに来てくれたこと、ちゃんと伝えておくわね」
 雪乃ママはそう言い、私は大きく頷いた。