もしもこの気持ちを青春というのなら私は青春なんていらないと思った

 うずくまって泣いてしまっていた私に、若い女の人が声をかけてくれて、ベンチに座らせてくれてジュースをくれた。
 特に理由も訊かず、私が落ち着くまでそばにいてくれた。
 私が落ち着くと女の人は「無理しちゃダメだよ」と言ってから、いつの間にかいなくなっていた。
 重い体と気持ちのまま家に帰り、そのまま自室に行ってベッドにダイブした。
「最近、ベッドにダイブ、多いな」
 独り言を言ってしまう。
 ベッドにダイブするのも、独り言を言うのも最近は多い。
 でも昨日までは、本当に楽しかったり嬉しかったり、照れてだったりだったりで嬉しいことばかりだった。
 なのに昨日からは重たい気持ちばかり。
 しかもドロドロした気持ちばかり。
 自分がこんなに嫌な人間だとは思わなかったし、こんな嫌な人間だと思い知らされるとは思わなかった。
「凛華〜、ご飯どうする〜?」
 最近、自室に直行する日は胸がいっぱいでご飯が食べられなかったり、食べる時間が遅くなる日が多くて、私が自室に直行した今日も、ママは晩御飯の確認をしてきた。
「今日は……いらない」
 嬉しいからお腹もいっぱいだとかそうではない。
 気持ちが重たくて、体が動かない。
 ベッドに体がめり込んで、起き上がれそうになかった。
 
 次の日の朝。
 雪乃から『今日は体調があまりよくないので、学校お休します。昨日は本当にごめんね』とラ◯ンが届いて、その後すぐ『ごめんね』のスタンプが送られてきた。
 軽い感じのメッセージだったけど、いつもなら休みの理由を詳しく教えてくれるのに、今日はなかったことがひっかかった。
 昨日、雪乃は本当に体調が悪そうだった。
 でも私は雪乃に体調が大丈夫になったか、訊けなかった。
 そんな私に雪乃は何度も謝ってくれる。
 私は本当に雪乃の親友としていてもいいのだろうかと、思ってしまう。
 あんなに楽しみだった春人君達との登校も、今日はこんな私のままでは会いずらくて、ママに「胃が痛いから、今日は遅れていく」と嘘をついた。
 春人君に遅れていくとラ◯ンしたら、電話がかかってきた。
『おはよ』
 いつもの春人君の声。
「おはよ」
 返した。
 今までだったら嬉しすぎるのに、今日は気まずい。
『体調大丈夫?』
 嘘をついている私に対して、心配してくれている。
 胸が締め付けられた。
「ちょっと昨日、晩御飯食べすぎちゃったみたいで胃痛がね」
 また嘘を重ねた。
「熱はないの?」
 また心配してくれる。
「ないよ〜。平熱も平熱」
 元気に答えた。
 元気に答えたのに、心はどんどん冷えていく。
「雪乃、今日休むって連絡入ったの」
 言うと、
「みたいだね」
 返事があった。
 ああ、雪乃、春人君に連絡したんだ。
 雪乃が春人君にラ◯ンしたらダメだなんてないのに、胸がチクリとした。
 もう本当にこんなことを感じてしまうのが嫌で、頭をブンブンと振った。
『元気になったら一緒に行こうね』
 こんな私にそんなことを言ってくれる。
「うん」
 返事をしたけど、私にそんな資格はないのかもしれないと思ってしまった。

「凛華〜」
 クラスメイトの弥生が前から走ってきた。
 そして私が倒れるかもしれないぐらいの勢いのまま、私に飛びついてきた。
「昨日、寝癖君との映画はどうだった?」
 弥生には寝癖君の名前は春人君だと教えてある。
 でも「寝癖君の方がわかりやすいから」と、春人君のことをずっと寝癖君と呼んでいた。
「昨日はみんなで水族館に行ったんだ」
「え? みんなで?」
 不思議そうに弥生が首を傾げる。
「うん。水族館、本当は秋人君が友達と行く予定だったんだけど、友達が行けなくなっちゃて」
 言葉にして、昨日水族館に行ったのは、やっぱり仕方ないことだと思う。
「凛華はそれでよかったの?」
 なんでもはっきり言う弥生が言った。
「私だったら、それ嫌だな〜。だって好きな人とのデートって特別で楽しみじゃん。そのために可愛くなるよう用意もするしさ」
「う……うん……」
「じゃあ、次二人で出かける約束はしたの?」
 痛いところを突かれてしまった。
「してない……」
 次の約束はしていない。
 いつも次の約束は話の流れでするから、今回もそうだと言い聞かせていたところも私自身ある。
「絶対すべきだって。今すぐメールしなさい」
 スマホを出すように、手を私の方に出した。
「いいよ、また今度で」
 今メールしたら、どうしても二人で出かけたい子みたいで恥ずかしい。
「みんなで出かけるの楽しいし、私好きだよ。それに二人っきりだと、ちゃんと話せないかもだしね」
 二人でギクシャクするより、みんなと一緒で楽しくできるならそれがいい。
「そっか〜、そっか〜」
 なぜだか弥生は穏やかな目で私を見る。
「前に進みたいけど、進むのが怖いってことね。わかるよ〜」
 弥生は何かの考えがあったように、うんうんと頷く。
「凛華、頑張りなよ」
 両手をギュッと握られた。
「このジレジレ感。青春だね〜」
 言った弥生は「私も絶賛ジレジレ青春中なんだけどね」と目を細め困ったように笑った。