雪乃は雪乃ママとそのまま一緒に帰った。
春人君が「次回のイルカショー見に行かない?」っていってくれたけど、もうそんな気にはなれなかった。
できるだけ早く、この場から逃げ出したかった。
「雪乃も帰ったし、今日はもう帰ろう。雪乃が元気になったら、またみんなで一緒に出かけようよ」
そう言うと、春人君も秋人君もなぜだかほっとした様子だった。
ここで『それでも行こう』と言われても困ったけど、ほっとされたら私が邪魔だったみたいで胸がチクチクする。
こんなこと思う私は、人としてどうなのかとも思う。
結局は自分のことだけ。
引き止められても困るけど、引き止めてももらいたい気持ちもある。
私の中にこんな気持ちがあるなんて、知らなかった。
知りたくもなかった。
もう何も考えたくなかった。
春人君達と電車で帰る方向は同じだったけど、一緒にいたら嫌な自分が出てきて、春人君達に気付かれてしまいそうだったから、「用事があるから」と反対方向の電車に乗った。
もちろん用事なんてない。
でも一人になりたかった。
ドアにもたれかかり、吊り広告をぼんやり見ていた。
「あれ? 生徒手帳ちゃんじゃない?」
背後から男の子の声がした。
「ほんとだ。手帳ちゃんだ」
呑気そうな別の声もした。
生徒手帳ちゃんだなんて、変な言い方。
ぼんやり聞いていると、背後から肩をポンポンと叩かれた。
「え?」
咄嗟に振り返ると、春人君と秋人君と同じ学校の制服を着た男の子達が三人いた。
「やっぱり生徒手帳ちゃんだ」
「久しぶり〜」
ひらひらと手を振られるけど、制服は春人君達と同じだけど、男の子達のことを全く覚えてない。
「あの〜……」
戸惑っていると、
「覚えてないの当たり前だよ。俺たち話してないからね」
「そうそう、職員室で白ちゃんと話してるの、俺達周りで見てただけだから」
つぎつぎに男の子達が話だす。
「白ちゃん?」
「ああ、生徒手帳ちゃんが話していた先生。白石先生って言って、みんなから白ちゃんって呼ばれてるんだ」
白石先生の白で、白ちゃん。
どこの学校も先生のあだ名って面白い。
フフフと笑ってしまった。
「あれ? もう一人の生徒手帳ちゃんは?」
一人の男の子があたりをキョロキョロ見渡す。
もう一人の生徒手帳ちゃん。
きっと雪乃のことだ。
「今は雪乃とは別行動なんです」
「そうそう! もう一人の生徒手帳ちゃん、雪乃ちゃんだった。じゃあ君は凛華ちゃんだ」
名前を言われてびっくりした。
確かあの時、名前は言わなかったはず。
「どうしてそれを?」
「春人が言ってたから」
「春人君が? どうして?」
「だって、よく君たちの話、春人してるよ。周りにいなかったタイプだって」
「特に凛華ちゃんは、面白いって」
面白いって。
私が周りにいないタイプだったから、私なんかと話してくれてたんだ。
今日、何度目かの胸がずきんとした。
「ああ、落ち込まないで。春人が言ってた面白いって、悪い意味じゃないから」
「天然で癒し系ってこと。春人、相手に好意を持たれていても気付かないぐらい鈍感で、秋以外あまり興味ないんだ。そんな春人が興味を持ったってことは、すごいことなんだよ」
慰められてしまった。
「君達の話をよくしてたんだけど、今度凛華ちゃんと映画に行くって楽しみにしてたよ」
「え? 春人君が?」
「あ、映画に行く日、今日じゃなかったっけ?」
「そういやそうだ。それにしては帰りが早いし、春人と一緒じゃないの?」
チラリと私の背後を見て、春人君がいないと確認すると、不思議そうに私を見た。
「今日映画じゃなくて、みんなで水族館に行ったんです」
言って、さっきまでのことが思い出されて、また胸がズキンとする。
「秋と雪乃ちゃんも一緒に?」
「はい……」
「へ〜水族館か〜。水族館なんていつぐらいから行ってないかな? どうだった? 楽しかった?」
「楽しかったですよ」
口角を上げて言った。
楽しかった。途中までは、本当に楽しかった。
でも途中から、嫌な私が出てきた。
「人数多くで出かけたら、楽しいよな。俺らも今度水族館行こうぜ」
「男ばっかりで行くのかよ」
一人の男の子がうげ〜と苦いものを食べた時のように、顔をしかめる。
「でも仕方ないだろ?」
「だな」
楽しそうに会話が弾んでいる。
「そういえば雪乃ちゃんて、マナちゃんに似てない?」
一人の男の子が言った。
「俺も思った! 雰囲気も顔も似てる」
マナちゃん。
どこかで聞いたことのある名前。
「マナちゃんって?」
「あれ? 聞いてない? 春人と小さい頃からのダンス友達」
「今はダンス留学してるって言ってたよな」
「あのマナさん」
春人君が誘ってくれたダンスバトルで聞いた。
バトルしたエマちゃんのお姉さんって。
その人が雪乃と似てるのって、何か関係あるの?
「俺、密かにマナちゃん好きだったんだよな〜」
私がいることを忘れているかのように話す。
「おいおい、それ春人に聞かれたら、怒られるぞ」
「そうだぞ。マナちゃんは春人の初恋の人だからな」
「え……?」
思わず声が出た。
私がいることを思い出した男の子達は、またバツが悪そうにする。
「あ……深い意味はないんだ」
「マナちゃんと雪乃ちゃんが似てるからって、春人が何か言ってたわけじゃないし」
「そうそう。似てるから、何かあるわけじゃないし……。凛華ちゃんとの話が楽しいって言ってたし」
言い直してくれたけど、言われれば言われるほど、胸が抉られる。
胸が抉られるのに、妙に納得した。
「そうなんだ〜」
モヤは消えていったのに、泣きたくなる。
「雪乃に似ててダンスも上手なマナさんって、素敵な人だったんだろうな〜。会ってみたかったな〜」
そう言うと、男の子達はホッとした表情になる。
「長期休みは数日帰ってくるみたいだから、春人に言っておいたら紹介してくれると思うよ」
「そうなんだ。じゃあ、春人君にお願いしておこっかな」
そう言うのが精一杯だった。
このままじゃ泣いてしまう……。
両手で握り拳を作って、強く握りしめた。
でも少しでも力を緩めれば、涙がこぼれそうだった。
そんな時、電車が駅に着いた。
「あ、私、ここで降りるから。またね」
男の子達が何か言っていたけど、何を言っていたのか聞く余裕はなかった。
急いで電車を降りて、ホームに降りた。
電車の中にいる男の子達に、最後の力を振り絞り笑顔で手を振る。
電車がホームを走り去った時、もうそこに立っていられなかった。
足から崩れ落ち、涙が後から後から出てきてしまった。
春人君が「次回のイルカショー見に行かない?」っていってくれたけど、もうそんな気にはなれなかった。
できるだけ早く、この場から逃げ出したかった。
「雪乃も帰ったし、今日はもう帰ろう。雪乃が元気になったら、またみんなで一緒に出かけようよ」
そう言うと、春人君も秋人君もなぜだかほっとした様子だった。
ここで『それでも行こう』と言われても困ったけど、ほっとされたら私が邪魔だったみたいで胸がチクチクする。
こんなこと思う私は、人としてどうなのかとも思う。
結局は自分のことだけ。
引き止められても困るけど、引き止めてももらいたい気持ちもある。
私の中にこんな気持ちがあるなんて、知らなかった。
知りたくもなかった。
もう何も考えたくなかった。
春人君達と電車で帰る方向は同じだったけど、一緒にいたら嫌な自分が出てきて、春人君達に気付かれてしまいそうだったから、「用事があるから」と反対方向の電車に乗った。
もちろん用事なんてない。
でも一人になりたかった。
ドアにもたれかかり、吊り広告をぼんやり見ていた。
「あれ? 生徒手帳ちゃんじゃない?」
背後から男の子の声がした。
「ほんとだ。手帳ちゃんだ」
呑気そうな別の声もした。
生徒手帳ちゃんだなんて、変な言い方。
ぼんやり聞いていると、背後から肩をポンポンと叩かれた。
「え?」
咄嗟に振り返ると、春人君と秋人君と同じ学校の制服を着た男の子達が三人いた。
「やっぱり生徒手帳ちゃんだ」
「久しぶり〜」
ひらひらと手を振られるけど、制服は春人君達と同じだけど、男の子達のことを全く覚えてない。
「あの〜……」
戸惑っていると、
「覚えてないの当たり前だよ。俺たち話してないからね」
「そうそう、職員室で白ちゃんと話してるの、俺達周りで見てただけだから」
つぎつぎに男の子達が話だす。
「白ちゃん?」
「ああ、生徒手帳ちゃんが話していた先生。白石先生って言って、みんなから白ちゃんって呼ばれてるんだ」
白石先生の白で、白ちゃん。
どこの学校も先生のあだ名って面白い。
フフフと笑ってしまった。
「あれ? もう一人の生徒手帳ちゃんは?」
一人の男の子があたりをキョロキョロ見渡す。
もう一人の生徒手帳ちゃん。
きっと雪乃のことだ。
「今は雪乃とは別行動なんです」
「そうそう! もう一人の生徒手帳ちゃん、雪乃ちゃんだった。じゃあ君は凛華ちゃんだ」
名前を言われてびっくりした。
確かあの時、名前は言わなかったはず。
「どうしてそれを?」
「春人が言ってたから」
「春人君が? どうして?」
「だって、よく君たちの話、春人してるよ。周りにいなかったタイプだって」
「特に凛華ちゃんは、面白いって」
面白いって。
私が周りにいないタイプだったから、私なんかと話してくれてたんだ。
今日、何度目かの胸がずきんとした。
「ああ、落ち込まないで。春人が言ってた面白いって、悪い意味じゃないから」
「天然で癒し系ってこと。春人、相手に好意を持たれていても気付かないぐらい鈍感で、秋以外あまり興味ないんだ。そんな春人が興味を持ったってことは、すごいことなんだよ」
慰められてしまった。
「君達の話をよくしてたんだけど、今度凛華ちゃんと映画に行くって楽しみにしてたよ」
「え? 春人君が?」
「あ、映画に行く日、今日じゃなかったっけ?」
「そういやそうだ。それにしては帰りが早いし、春人と一緒じゃないの?」
チラリと私の背後を見て、春人君がいないと確認すると、不思議そうに私を見た。
「今日映画じゃなくて、みんなで水族館に行ったんです」
言って、さっきまでのことが思い出されて、また胸がズキンとする。
「秋と雪乃ちゃんも一緒に?」
「はい……」
「へ〜水族館か〜。水族館なんていつぐらいから行ってないかな? どうだった? 楽しかった?」
「楽しかったですよ」
口角を上げて言った。
楽しかった。途中までは、本当に楽しかった。
でも途中から、嫌な私が出てきた。
「人数多くで出かけたら、楽しいよな。俺らも今度水族館行こうぜ」
「男ばっかりで行くのかよ」
一人の男の子がうげ〜と苦いものを食べた時のように、顔をしかめる。
「でも仕方ないだろ?」
「だな」
楽しそうに会話が弾んでいる。
「そういえば雪乃ちゃんて、マナちゃんに似てない?」
一人の男の子が言った。
「俺も思った! 雰囲気も顔も似てる」
マナちゃん。
どこかで聞いたことのある名前。
「マナちゃんって?」
「あれ? 聞いてない? 春人と小さい頃からのダンス友達」
「今はダンス留学してるって言ってたよな」
「あのマナさん」
春人君が誘ってくれたダンスバトルで聞いた。
バトルしたエマちゃんのお姉さんって。
その人が雪乃と似てるのって、何か関係あるの?
「俺、密かにマナちゃん好きだったんだよな〜」
私がいることを忘れているかのように話す。
「おいおい、それ春人に聞かれたら、怒られるぞ」
「そうだぞ。マナちゃんは春人の初恋の人だからな」
「え……?」
思わず声が出た。
私がいることを思い出した男の子達は、またバツが悪そうにする。
「あ……深い意味はないんだ」
「マナちゃんと雪乃ちゃんが似てるからって、春人が何か言ってたわけじゃないし」
「そうそう。似てるから、何かあるわけじゃないし……。凛華ちゃんとの話が楽しいって言ってたし」
言い直してくれたけど、言われれば言われるほど、胸が抉られる。
胸が抉られるのに、妙に納得した。
「そうなんだ〜」
モヤは消えていったのに、泣きたくなる。
「雪乃に似ててダンスも上手なマナさんって、素敵な人だったんだろうな〜。会ってみたかったな〜」
そう言うと、男の子達はホッとした表情になる。
「長期休みは数日帰ってくるみたいだから、春人に言っておいたら紹介してくれると思うよ」
「そうなんだ。じゃあ、春人君にお願いしておこっかな」
そう言うのが精一杯だった。
このままじゃ泣いてしまう……。
両手で握り拳を作って、強く握りしめた。
でも少しでも力を緩めれば、涙がこぼれそうだった。
そんな時、電車が駅に着いた。
「あ、私、ここで降りるから。またね」
男の子達が何か言っていたけど、何を言っていたのか聞く余裕はなかった。
急いで電車を降りて、ホームに降りた。
電車の中にいる男の子達に、最後の力を振り絞り笑顔で手を振る。
電車がホームを走り去った時、もうそこに立っていられなかった。
足から崩れ落ち、涙が後から後から出てきてしまった。
