トイレから出ると、少し離れたところに春人君と秋人君がいた。
私と雪乃が一緒にいる姿を見て、少し驚いていたみたいだったけど、すぐにいつものような笑顔で「お〜い」と手を振ってくれた。
四人集まり電車に乗り込む。
三人が私を見た時、いつもと違う空気が一瞬流れたけど、そのあとはいつもと同じ。
水族館に着くまでの間、秋人君が一緒に水族館に行く約束をしていた友達が彼女とデートに行くからドタキャンしてきたと愚痴ったり、たわいもない話をした。
その頃には、私の中にあった黒いモヤも少しずつ薄れていってた。
休日の水族館はデート中の人達や親子連れ、友達同士の団体さんで賑わっていた。
水族館なんて小学校の遠足以来で、なんだかテンションが上がる。
入ってすぐの大水槽にはいろいろな魚がいて、その中にサメやエイもいる。
サメの中では大きい方ではないと思うけど、他の魚と一緒の水槽にいて、他の魚は食べられないのが不思議。
「どうしてサメは他の魚を食べないの?」
春人君はなんでも知ってそうなので、試しで聞いてみた。
「めんどくさいからみたいだよ」
答えが返ってきたことと、その理由二つに驚いた。
「水族館のサメは餌を貰ってるだろ? だからお腹は空いてない状態なんだ。そんな状態で穫りをするのはめんどくさいって、どこかの記事で読んだことがある」
「なるほどね〜」
春人君の引き出しの多さと、理由に納得しながら、大水槽にもう一度目をやった。
「魚の世界にもめんどくさいとかあるんだ。面白いね」
「そうなんだ。疑問をいろいろ調べてると、答えが意外だったり面白かったりするんだよ。ちなみにね、エイは……」
ここから春人君のうんちくタイムが始まった。
多分、水族館の案内人さんになれると思うほど、行く先々での魚のうんちくを教えてくれた。
私が見たかったチンアナゴのうんちくは、水が流れてくる方向に体を向ける習性があり、水流に乗ってくるゴハンを食べていて、そのため、みんなで同じ方向に顔を向けているんだとか、よく他のチンアナゴ同士でケンカをしているとか。
ペンギンのお散歩の時には、どうしてペンギンはよちよち歩きなのかも教えてくれた。
そこから水族館はどうして薄暗いのか? とか、水族館での海水の作り方と本当に幅広い話をしてくれた。
私も雪乃も秋人君もどんどん春人君に質問して、春人君が教えてくれる。
わからないことがあったら、即座にスマホで調べてくれたりと、水族館ツワーのようだった。
とっても楽しい。
春人君から映画に行かずにみんなで水族館に行こうと言われた時は、モヤっとしたけど、今は違う。
みんなと一緒に来られてよかったって、思う。
だって春人君と二人での映画も楽しかったと思うけど、緊張して多分こんなにたくさん話すことなんてできなかったと思う。
春人君との二人でのお出かけは、もう少し春人君との距離が近くなってから。
その時までのお楽しみにしようと思った。
お昼時を避けて、少し遅めの昼食を水族館内フードコートで食べることにした。
意外と広くて、普通のメニューから水族館ならではのご飯がイルカの形になったカレーメニューもあった。
普通のメニューも美味しそうだったけど、せっかくみんなで来たので、私と秋人君はイルカカレーを注文した。
春人君は海鮮丼、雪乃はきつねうどんだった。
可愛いものが好きな雪乃は、絶対イルカカレーにすると思っていたのに、きつねうどんを頼んだのが意外だった。
私はカレーとデザートにパフェを食べたけど、最近ダイエット中の雪乃はきつねうどんも半分以上残している。
気のせいかもしれないけど、駅のトイレで会った時より顔色が悪い。
昼食後はイルカショーを見に行こうと話していた。
「そろそろ移動する?」
秋人君がみんなの食器を片付けてきてくれて、移動しようと椅子から立ち上がった時、雪乃がふらつく。
「雪乃!」
私が手を差し出すより先に、
「大丈夫!?」
春人君が倒れそうになる雪乃を、抱き支える。
「ごめんね……大丈夫……」
春人君にゆっくりと椅子に座らせてもらった雪乃が作ったような微笑みを浮かべる。
雪乃の額にうっすら汗が滲んでいるようにも見える。
「雪乃……」
私が声をかける前に、
「そんなわけなけないじゃん。秋、お水買ってきて」
私が入る隙なく、春人君が秋人君に指示した。
雪乃は俯いていて、どんな表情をしているかわからない。
ゆっくりと雪乃の隣に春人君が座り、雪乃の顔を覗き込む。
春人君は自分のトートバッグからタオルハンカチを出して、雪乃の額に浮かぶ汗を拭った。
「凛華ちゃん。俺と雪乃ちゃん、ここでちょっと休んでるから、イルカショーは秋と行ってきて」
私の方をチラリとだけ見て、すぐに雪乃を見て背中を摩る。
消えていたはずのモヤがまた、胸の中に現れた。
今の雪乃の姿を見ると、雪乃は一緒に行くのは無理だ。
でも私は春人君と一緒に行きたい。
だからって、雪乃をおいて行けない。
頭の隅で、黒いモヤと共に黒い影のような私が囁く。
ー秋人君と一緒にいればいいんじゃない?ー
ハッとした。
私はなんてことを……。
雪乃は一番の親友。
なんてことが頭に浮かんだんだ……。
私が一番に雪乃のことを考えないで、どうするの!
「春人君、私が残るよ」
そう言いながら、雪乃の隣に座った。
顔を覗き込むと顔色は真っ青で、苦しいのかどこか痛いのか眉間に皺を寄せ、奥歯を噛み締め何かに耐えているようにも見える。
「雪乃……」
大丈夫? と聞きそうになった。
でもそんなこと聞かなくてもわかる。
大丈夫じゃない。
水族館の地図を取り出す。
医務室、どこかになかった?
地図の記号で医務室を探す。
「あった!」
地図に赤い十字のマークがあった。
「春人君、医務室あったよ。ここに雪乃を連れて行こう」
地図上で医務室を見つけた春人君は大きく頷いて、
「掴まって」
雪乃をお姫様抱っこで、抱き上げた。
「もう大丈夫だから」
地図をもう一度ざっと見る。
「ごめんね……」
春人君の首にしっかりと腕を絡め、雪乃は落ちないようにしがみつく。
「謝ることじゃないよ」
優しく春人君が言う姿が目に飛び込んでくる。
私のことなんて全く目に入らないかのように、二人は進んでいく。
ドクンっと胸が大きく鳴ってズキズキと痛む。
モヤも広がり、体を覆い尽くしそうになる。
「あの……」
私一人おいていかれそうで声をかけた。
「ああ……」
春人君は今、私がそこにいることを思い出したように立ち止まる。
「私も……」
ついていくと言う前に、
「秋が戻ってきたら、医務室にいるって言っててくれる?」
そう言い残し、また前を向いて歩き出した。
私と雪乃が一緒にいる姿を見て、少し驚いていたみたいだったけど、すぐにいつものような笑顔で「お〜い」と手を振ってくれた。
四人集まり電車に乗り込む。
三人が私を見た時、いつもと違う空気が一瞬流れたけど、そのあとはいつもと同じ。
水族館に着くまでの間、秋人君が一緒に水族館に行く約束をしていた友達が彼女とデートに行くからドタキャンしてきたと愚痴ったり、たわいもない話をした。
その頃には、私の中にあった黒いモヤも少しずつ薄れていってた。
休日の水族館はデート中の人達や親子連れ、友達同士の団体さんで賑わっていた。
水族館なんて小学校の遠足以来で、なんだかテンションが上がる。
入ってすぐの大水槽にはいろいろな魚がいて、その中にサメやエイもいる。
サメの中では大きい方ではないと思うけど、他の魚と一緒の水槽にいて、他の魚は食べられないのが不思議。
「どうしてサメは他の魚を食べないの?」
春人君はなんでも知ってそうなので、試しで聞いてみた。
「めんどくさいからみたいだよ」
答えが返ってきたことと、その理由二つに驚いた。
「水族館のサメは餌を貰ってるだろ? だからお腹は空いてない状態なんだ。そんな状態で穫りをするのはめんどくさいって、どこかの記事で読んだことがある」
「なるほどね〜」
春人君の引き出しの多さと、理由に納得しながら、大水槽にもう一度目をやった。
「魚の世界にもめんどくさいとかあるんだ。面白いね」
「そうなんだ。疑問をいろいろ調べてると、答えが意外だったり面白かったりするんだよ。ちなみにね、エイは……」
ここから春人君のうんちくタイムが始まった。
多分、水族館の案内人さんになれると思うほど、行く先々での魚のうんちくを教えてくれた。
私が見たかったチンアナゴのうんちくは、水が流れてくる方向に体を向ける習性があり、水流に乗ってくるゴハンを食べていて、そのため、みんなで同じ方向に顔を向けているんだとか、よく他のチンアナゴ同士でケンカをしているとか。
ペンギンのお散歩の時には、どうしてペンギンはよちよち歩きなのかも教えてくれた。
そこから水族館はどうして薄暗いのか? とか、水族館での海水の作り方と本当に幅広い話をしてくれた。
私も雪乃も秋人君もどんどん春人君に質問して、春人君が教えてくれる。
わからないことがあったら、即座にスマホで調べてくれたりと、水族館ツワーのようだった。
とっても楽しい。
春人君から映画に行かずにみんなで水族館に行こうと言われた時は、モヤっとしたけど、今は違う。
みんなと一緒に来られてよかったって、思う。
だって春人君と二人での映画も楽しかったと思うけど、緊張して多分こんなにたくさん話すことなんてできなかったと思う。
春人君との二人でのお出かけは、もう少し春人君との距離が近くなってから。
その時までのお楽しみにしようと思った。
お昼時を避けて、少し遅めの昼食を水族館内フードコートで食べることにした。
意外と広くて、普通のメニューから水族館ならではのご飯がイルカの形になったカレーメニューもあった。
普通のメニューも美味しそうだったけど、せっかくみんなで来たので、私と秋人君はイルカカレーを注文した。
春人君は海鮮丼、雪乃はきつねうどんだった。
可愛いものが好きな雪乃は、絶対イルカカレーにすると思っていたのに、きつねうどんを頼んだのが意外だった。
私はカレーとデザートにパフェを食べたけど、最近ダイエット中の雪乃はきつねうどんも半分以上残している。
気のせいかもしれないけど、駅のトイレで会った時より顔色が悪い。
昼食後はイルカショーを見に行こうと話していた。
「そろそろ移動する?」
秋人君がみんなの食器を片付けてきてくれて、移動しようと椅子から立ち上がった時、雪乃がふらつく。
「雪乃!」
私が手を差し出すより先に、
「大丈夫!?」
春人君が倒れそうになる雪乃を、抱き支える。
「ごめんね……大丈夫……」
春人君にゆっくりと椅子に座らせてもらった雪乃が作ったような微笑みを浮かべる。
雪乃の額にうっすら汗が滲んでいるようにも見える。
「雪乃……」
私が声をかける前に、
「そんなわけなけないじゃん。秋、お水買ってきて」
私が入る隙なく、春人君が秋人君に指示した。
雪乃は俯いていて、どんな表情をしているかわからない。
ゆっくりと雪乃の隣に春人君が座り、雪乃の顔を覗き込む。
春人君は自分のトートバッグからタオルハンカチを出して、雪乃の額に浮かぶ汗を拭った。
「凛華ちゃん。俺と雪乃ちゃん、ここでちょっと休んでるから、イルカショーは秋と行ってきて」
私の方をチラリとだけ見て、すぐに雪乃を見て背中を摩る。
消えていたはずのモヤがまた、胸の中に現れた。
今の雪乃の姿を見ると、雪乃は一緒に行くのは無理だ。
でも私は春人君と一緒に行きたい。
だからって、雪乃をおいて行けない。
頭の隅で、黒いモヤと共に黒い影のような私が囁く。
ー秋人君と一緒にいればいいんじゃない?ー
ハッとした。
私はなんてことを……。
雪乃は一番の親友。
なんてことが頭に浮かんだんだ……。
私が一番に雪乃のことを考えないで、どうするの!
「春人君、私が残るよ」
そう言いながら、雪乃の隣に座った。
顔を覗き込むと顔色は真っ青で、苦しいのかどこか痛いのか眉間に皺を寄せ、奥歯を噛み締め何かに耐えているようにも見える。
「雪乃……」
大丈夫? と聞きそうになった。
でもそんなこと聞かなくてもわかる。
大丈夫じゃない。
水族館の地図を取り出す。
医務室、どこかになかった?
地図の記号で医務室を探す。
「あった!」
地図に赤い十字のマークがあった。
「春人君、医務室あったよ。ここに雪乃を連れて行こう」
地図上で医務室を見つけた春人君は大きく頷いて、
「掴まって」
雪乃をお姫様抱っこで、抱き上げた。
「もう大丈夫だから」
地図をもう一度ざっと見る。
「ごめんね……」
春人君の首にしっかりと腕を絡め、雪乃は落ちないようにしがみつく。
「謝ることじゃないよ」
優しく春人君が言う姿が目に飛び込んでくる。
私のことなんて全く目に入らないかのように、二人は進んでいく。
ドクンっと胸が大きく鳴ってズキズキと痛む。
モヤも広がり、体を覆い尽くしそうになる。
「あの……」
私一人おいていかれそうで声をかけた。
「ああ……」
春人君は今、私がそこにいることを思い出したように立ち止まる。
「私も……」
ついていくと言う前に、
「秋が戻ってきたら、医務室にいるって言っててくれる?」
そう言い残し、また前を向いて歩き出した。
