もしもこの気持ちを青春というのなら私は青春なんていらないと思った

 どうしよう。どうしよう。どうしよう。
 やばい、やばい、やばい……。
 春人君とのデート前日。
 雪乃コーデの服は私の服と、雪乃に借りた服を体にあてて、鏡の前でくるっと回った。
 明日は髪にオイルを塗って、練習し続けて腕を上げてきたナチュラルメイクもしていく。
 準備に時間がかかると思ってスマホのアラームを早くセットした。
 そんな時、スマホが鳴った。
 春人君からで、胸が高鳴る。
「もしもし」
 声のトーンがいつもより高くなった。
 うわずってなくて、よかった。
 ホッとしていると、春人君の声は返ってこない。
「春人君?」
 呼びかけると、
「明日のことなんだけど……」
 春人君の重い声がした。
 なんだか嫌な予感がする。
「……。明日、映画じゃなくて、みんなで水族館に行かない?」
 長い沈黙の後、思いもよらない言葉が返ってきた。
「え?」
「秋、友達と水族館に行く予定だったんだけど、どうも友達がいけなくなったみたいで、チケットが三枚余ったんだって。で、そのチケットがもったいないから、俺たちみんなで行くのはどうかなって……」
「……」
「今回のテスト、みんな頑張ったから、俺たちだけじゃなくて、みんなで行けるところがいいんじゃないかって思って」
 春人君には珍しく早口になっている。
「でも……」
 『でも』のあとに、何か続けたい言葉があったわけじゃない。ただ口から出てしまっただけ。
 なのに……、
「みんなで頑張ったんだから、みんなで思い出作りたいじゃん。凛華ちゃんもそう思うでしょ? ね? ね?」
 私が嫌だという前に『うん』と言わせるように、言葉を覆い被せてきた。
「凛華ちゃんだって、俺と二人よりみんなといっしょの方が楽しいよね」
 なにそれ……。
 胸が苦しくなると同時に、胸の中に大きなモヤが広がる。

ー春人君は私と二人より、みんなと一緒の方がいいの?ー
 
 訊きたかったけど、どうしてもその言葉を胸の中から這い上がらせ、口から発する勇気はなかった。
「雪乃ちゃんの予定を聞いたら空いてるって。こんな機会なかなかないから行こう」
 強引というより私の意見や気持ちなんて関係ない。
 私に拒否権なんてないような言い方。
「私は……」
 行きたくない。
 みんなとなんて行きたくない。
 私は春人君と二人で行きたい。
 だって春人君と出かけるために、頑張った。
 用意だってした。
 ずっとずっと楽しみにしてた。
 なのにどうして……。
 スマホを持つ手に力が入る。
「〇〇駅で待ち合わせはどう?」
 私はなにも答えていないのに、話はどんどん進んでいく。
「私は……」
 それでも最後の力を振り絞って『いやだ』と言おうとした。でも……
「俺、そこでみんなと待ってるから」
 そう春人君は言い、通話を切った。