ある日の昼休み。
「ねぇねぇ!今年10月に花火大会あるの知ってる?」
「花火大会?」
「そう!なんか夏の風物詩だけど気温が高すぎてみんなしんどいだろうからって今年から秋にやるようになったらしいよ!」
小林の通うアートコースでは花火大会の話題で盛り上がっていた。
「花火大会かぁ」
「舞は行くの?」
「うーん。いや、行かないかなぁ。最近、吉澤部活に熱入ってて忙しそうだし、誘っても断られちゃいそう。そもそもチケットないし」
「ほんとにいいの〜?来年は受験があってきっと行けないだろうから今年が最後のチャンスだよ〜?」
クラスメイトに煽られ頭を抱える。
「そもそも吉澤くんといい感じなんでしょ?一緒に帰ったりもして。断られたとしてもそう簡単に壊れるような関係じゃないんじゃない?」
「でも…邪魔したくないし…」
「あぁ!もう!うじうじすんな!行きたいの?行きたくないの?」
「……行きたい」
その姿を見てクラスメイトが悶え苦しむ。
「今のビジュならいける!その顔を向けられて断る男はいない!当たって砕けろ!」
「えぇ!でもチケット…」
「私のあげるから!」
「え?!なんで?!行くんじゃなかったの?」
「……彼氏に振られたんだ!」
へぇと言い小林がニヤニヤする。
「おい。今バカにしただろ!」
「してないしてない!あちゃーって思っただけで」
「それをバカにしてるって言うんだよ!さっさと誘ってこい!」
小林は逃げるように教室を出ていった。
アートコースの校舎から普通科コースの校舎へと移動し、吉澤を探す。
「廊下にはいないかぁ。教室に行くの緊張するんだよなー。みんなが一気にこっちを向く瞬間。すごく嫌い」
深呼吸をして扉を開けるとそこには坊主頭の巨人が立っていた。
「ぎゃー!!!バケモノー!!!」
思い切り尻餅をついた。
「え?!大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい。びっくりしちゃって」
よく見るとラグビー部の部員だった。だいぶ失礼なことをしてしまった。
「あの吉澤って教室にいますか?」
「あぁあいつはこの時間いっつも屋上にいるよ」
「屋上…?」
校舎外に設置してある非常用の階段を登り、屋上へ行くと寝そべっている吉澤がいた。
「いっつもここにいるの?」
「うぉっ!びっくりした!なんだよ急に」
「びっくりしたのはこっちよ。クラスにいると思って探しに行ったらいないし、おまけにラグビー部な人にバケモノって言っちゃうし」
「は?何言ってんだ」
そりゃそうか。いきなりこんなことを言われたって誰だってそんなリアクションになる。
「まぁそんなことはどうでもよくって」
「じゃーん!」
小林はチケットを2枚見せびらかす。
「今度の土曜日に花火大会があるんだって!部活終わったら一緒にどお?」
「へぇ花火かぁ。行くか」
「ほんと?!」
「そんな驚くことか?」
「いや、最近部活に熱入ってるから断られるかなぁって」
「まぁ息抜きも大事よ」
「そっか。じゃあよろしくね」
小林はバイバイと手を振り階段を降りていく。
なんだか今日は日差しが強くて顔があつい気がする。
そして土曜日。
この日はたまたま部活が午前中で終わり、会場近くの駅で待ち合わせることにした。駅周辺には浴衣姿の女性やカップルが密集し、会場まで長い列を作っていた。
小林は集合から1時間ほど前にすでに駅に着き、そわそわしていた。
遡ること数時間前。
「部活お疲れ!」
小林はクラスメイトの両親が経営する着付け屋にと集合し浴衣の着付けに来ていた。
「いよいよ本番だね!告白するんでしょ?」
「え?!」
「え?!しないの?!」
「いや…考えてなかった」
周りにいたクラスメイトが全員呆れていた。
「こんな絶好のチャンスないじゃん!勝負してきなよ!」
「でも吉澤は部活で忙しいだろうし…今ここで告白するのが正解かわからない」
「あのね。忙しいを理由にする人は本当は忙しくないから。ただめんどくさいと思ってるだけ。吉澤くんはきっとそんな人じゃないよ。大丈夫」
「う、うん!わかった!がんばる!」
小林は息を荒くし、気合いを入れた。
「ちなみに理想は?」
「理想?」
「うん。色々あるじゃん?」
「うーん。でも漫画みたいに花火が上がってる時に耳元でこそっと言いたいかも」
きゃー!っと声が上がる。
「じゃあ告白を成功させるためにも着付けしてもらおう」
※
「できた!」
「おぉーかわいい」
クラスメイトから歓声が上がる。
薄い紫色の浴衣に花飾りをつけ、少しいつもと違ったメイクをする。たったそれだけなのに鏡に映った自分はまるで別人のように見えた。
「それだけ可愛かったらいけるよ!」
「うん!なんだか自信が湧いてきた!今日で決めてくる!
「おぉ!やっとその気になった!」
「ありがとう!行ってきます!」
小林は店をあとにする。
「いやぁ流石にかわいいなあれ」
「ついに舞にも彼氏ができるのかー」
「そもそもあのビジュでいない方がおかしいけどね?」
「んねー。ん?これって…」
そして時は現在。
あんなことを言って意気込んで出てきたはいいもののいざ一人ぼっちになると自信がなくなってきた。手鏡で何度もメイクと前髪をチェックし、着崩れがないかを確認する。集合時間が近づくにつれ、緊張が高まっていった。
「あ、小林」
「やっときたー遅いよー」
「遅いってまだ集合時間の30分前だぞ早い方だろ」
「……それよりどお?なんか言うことないの」
「え、いやまぁ。すごく可愛いと思います」
小林はわかりやすく笑顔になる。
「正解!じゃあ行こ!花火大会まだ時間あるし屋台周ろう!」
「正解ってなんだよ」
「おぉーすごい。花火大会っていうよりかほぼ、お祭りだね」
「まぁ夏にやってたお祭りと花火大会を合体させたって話もあるからすごい豪華になるよね」
「あ!焼きそば食べたい!」
小林が突然走り出す。
「おじさん一つください!」
「はいよ!お?いいねぇカップルかい?」
「うーん。ちょっと違う」
「おや、違うのかい。でもお似合いだよ。はい。お待ち」
「ありがとうございます!」
小林は嬉しそうに笑った。
「次はチョコバナナがいい!」
「ちょっと落ち着けよまだ焼きそば食べてないだろ」
「売り切れちゃうかもしれないじゃん!」
「えぇ…」
吉澤と小林はあちこち歩き回り、気づけば両手いっぱいにビニール袋を持っていた。
「なんだか…修学旅行を思い出す…」
吉澤はすでに疲れ切っていた。
「何さー野球部でしょー?これぐらい歩いてもらわなきゃ」
「関係あるかよ。てか1人でこの量食べ切れるの?」
「え?なんで?花火見ながら一緒に食べよ?」
「え?あ、うん」
ピーンポーンパーンポーン
「まもなく花火大会の座席を開場いたします。チケットをお持ちの方お並びの上、座席にご着席ください」
「お!もうすぐ始まるってさー行こ?」
小林がチケットを出すために巾着を漁る。
「吉澤ちょっとこれ持ってて」
吉澤に全ての食べ物を持たせてよく探す。が、チケットは見当たらない。
「…やばい」
「ん?どした?」
「ない…!」
「まさか!」
どこかでチケットを落としたのだろうか、家を出る時は確かに巾着の中に入れたはず。あと巾着の中をいじったタイミングは…着付け屋だ。スマホを取り出し画面を見るとクラスメイトからの不在着信が何通も入っていた。
「もしもし」
「舞!やっと気づいた!今どこにいるの?!チケット忘れてってどうするのさ!」
「どうしよう…今から取りに戻る時間なんて無い…」
「会場入らなくてもどこか見える場所ないの?」
「そんなこんな短時間で…」
「こんな肝心な時に!もう吉澤くんとどうするか決めるしかないでしょ?!わたしにはどうすることもできないよ」
「そうだよね…ありがとう」
「とりあえず頑張りな」
申し訳ないことをした。せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。
「ごめん…チケット忘れちゃった」
今にも泣き出しそうな声で謝る。
「うーん」
吉澤は何かを悩んでいた。
「どうしたの?」
「その格好でさこの荷物を持ってできるだけ速く走れる?」
「え、う、うん。どうするの?」
「まぁいいからついてきてよ」
吉澤はそういうと、小林の手を取り走り出した。
「え」
着いた場所は学校だった。
「確か屋上へ行く階段は土日も施錠されてないはずなんだ。ほら開いた」
2人は階段を登り、屋上へと足を運ぶ。
屋上についたその時、ドンッという音が夜空に響き渡った。
「やっぱり!俺の予想通りだった」
吉澤はドヤ顔をした。
「ここから見えるの知ってたの?」
「ううん。ちょっとかけだったんだ。でも会場と学校はそんなに離れてないし、もしかしたらって思ってね。俺も楽しみにしてたし、せっかくなら見たいじゃん?」
本当はチケットで会場に入り、花火大会が始まったら耳元で告白する。そんな妄想をしていた。それがチケットを忘れて会場には入れず、挙げ句の果てに吉澤に助けられ、しかも2人きりで花火を見ることになった。そして嬉しいことも言ってくれた。楽しみにしていたのは自分だけだと思っていた。自分が想像していた形ではなかった。理想の場所でもなかった。でも溢れ出る気持ちを止めることはできなかった。
気づいた時には
「好き」
という言葉が口からこぼれていた。
「え…」
吉澤は困惑していた。
「あ、いや違くて!あ、別に違くはないんだけど…なんというかつい口が滑ったというか」
慌てふためく小林を見てさらに困惑する。
「一旦落ち着こ?」
「う、うん」
小林は深呼吸をした。
「それで…良かったらもう一回聞かせて?」
「うん。ずっと好きだったの!吉澤のことが…ずっと…でも今日こんな形になっちゃって…申し訳ないというか」
自分の意思とは反対に涙が溢れてくる。
それを見た吉澤は小林を優しく抱きしめた。
「大丈夫。気持ちは伝わったよ。俺もね小林のこと好きだったんだ。だから俺と付き合ってください」
「うぅぅ…はいぃ…」
真っ暗な夜空を花火が彩っている。場所は違えど形は違えど大きく実っていた蕾はついに開花を迎えた。それ祝福するかのように大きな音を立て花火大会はフィナーレを迎えていた。
※
「ちょっと落ち着いた?」
花火大会が終わり明るかった夜空が再び闇に包まれた。2人を照らすのは屋上にあった防犯灯だけだった。
「うん。ありがとう。相変わらず優しいね」
屋上にあるベンチに腰をかける。屋台で買った食べ物を広げ、2人で箸をつつく。
「ね。いつから私のこと好きだったの?」
いつもの調子を戻した小林はニヤニヤしながら吉澤を攻めていた。
「やだよ。そんなの恥ずかしいやん」
「えー?良いじゃん。教えてよ」
「じゃあ小林はいつから俺のこと好きだったの?」
「え!うーん私は高校1年生の時かなーみんなが私を雑に扱う中、吉澤は唯一部員として私を見てくれた。それがすごく嬉しかったなー。そこからかな意識するようになったのは」
「そっかそっか」
吉澤は嬉しそうにする。
「で?そっちは?」
「うーん言わない」
「えー!恥ずかしい思いして言ったのに!」
「あはは!まぁでもこれだけは伝えておくよ小林は昔から俺のことを支えてくれてたんだよ」
「え?どういうこと?」
「さて、夜も遅いしそろそろ帰りますか」
「うん!花火ありがとう。もうダメかと思ったけど…良い思い出になった!」
「ほんとチケットくれたクラスメイトには謝らなきゃね」
「うん…。あのさ、せっかく付き合ったんだし苗字で呼び合うのもなんか距離感じるから名前で呼び合わない?」
「そうだね。そうしよっか」
「じゃあ練習ね。た、た…ひぃ!恥ずかしくて言えない!」
「何してんだよ早く呼んでよ
「わかってるよ!た…たける!」
「うん。これからよろしくね。舞」
「ん」
花火大会が行われたこの日初々しいカップルが誕生した。
「ねぇねぇ!今年10月に花火大会あるの知ってる?」
「花火大会?」
「そう!なんか夏の風物詩だけど気温が高すぎてみんなしんどいだろうからって今年から秋にやるようになったらしいよ!」
小林の通うアートコースでは花火大会の話題で盛り上がっていた。
「花火大会かぁ」
「舞は行くの?」
「うーん。いや、行かないかなぁ。最近、吉澤部活に熱入ってて忙しそうだし、誘っても断られちゃいそう。そもそもチケットないし」
「ほんとにいいの〜?来年は受験があってきっと行けないだろうから今年が最後のチャンスだよ〜?」
クラスメイトに煽られ頭を抱える。
「そもそも吉澤くんといい感じなんでしょ?一緒に帰ったりもして。断られたとしてもそう簡単に壊れるような関係じゃないんじゃない?」
「でも…邪魔したくないし…」
「あぁ!もう!うじうじすんな!行きたいの?行きたくないの?」
「……行きたい」
その姿を見てクラスメイトが悶え苦しむ。
「今のビジュならいける!その顔を向けられて断る男はいない!当たって砕けろ!」
「えぇ!でもチケット…」
「私のあげるから!」
「え?!なんで?!行くんじゃなかったの?」
「……彼氏に振られたんだ!」
へぇと言い小林がニヤニヤする。
「おい。今バカにしただろ!」
「してないしてない!あちゃーって思っただけで」
「それをバカにしてるって言うんだよ!さっさと誘ってこい!」
小林は逃げるように教室を出ていった。
アートコースの校舎から普通科コースの校舎へと移動し、吉澤を探す。
「廊下にはいないかぁ。教室に行くの緊張するんだよなー。みんなが一気にこっちを向く瞬間。すごく嫌い」
深呼吸をして扉を開けるとそこには坊主頭の巨人が立っていた。
「ぎゃー!!!バケモノー!!!」
思い切り尻餅をついた。
「え?!大丈夫ですか?」
「あ、ごめんなさい。びっくりしちゃって」
よく見るとラグビー部の部員だった。だいぶ失礼なことをしてしまった。
「あの吉澤って教室にいますか?」
「あぁあいつはこの時間いっつも屋上にいるよ」
「屋上…?」
校舎外に設置してある非常用の階段を登り、屋上へ行くと寝そべっている吉澤がいた。
「いっつもここにいるの?」
「うぉっ!びっくりした!なんだよ急に」
「びっくりしたのはこっちよ。クラスにいると思って探しに行ったらいないし、おまけにラグビー部な人にバケモノって言っちゃうし」
「は?何言ってんだ」
そりゃそうか。いきなりこんなことを言われたって誰だってそんなリアクションになる。
「まぁそんなことはどうでもよくって」
「じゃーん!」
小林はチケットを2枚見せびらかす。
「今度の土曜日に花火大会があるんだって!部活終わったら一緒にどお?」
「へぇ花火かぁ。行くか」
「ほんと?!」
「そんな驚くことか?」
「いや、最近部活に熱入ってるから断られるかなぁって」
「まぁ息抜きも大事よ」
「そっか。じゃあよろしくね」
小林はバイバイと手を振り階段を降りていく。
なんだか今日は日差しが強くて顔があつい気がする。
そして土曜日。
この日はたまたま部活が午前中で終わり、会場近くの駅で待ち合わせることにした。駅周辺には浴衣姿の女性やカップルが密集し、会場まで長い列を作っていた。
小林は集合から1時間ほど前にすでに駅に着き、そわそわしていた。
遡ること数時間前。
「部活お疲れ!」
小林はクラスメイトの両親が経営する着付け屋にと集合し浴衣の着付けに来ていた。
「いよいよ本番だね!告白するんでしょ?」
「え?!」
「え?!しないの?!」
「いや…考えてなかった」
周りにいたクラスメイトが全員呆れていた。
「こんな絶好のチャンスないじゃん!勝負してきなよ!」
「でも吉澤は部活で忙しいだろうし…今ここで告白するのが正解かわからない」
「あのね。忙しいを理由にする人は本当は忙しくないから。ただめんどくさいと思ってるだけ。吉澤くんはきっとそんな人じゃないよ。大丈夫」
「う、うん!わかった!がんばる!」
小林は息を荒くし、気合いを入れた。
「ちなみに理想は?」
「理想?」
「うん。色々あるじゃん?」
「うーん。でも漫画みたいに花火が上がってる時に耳元でこそっと言いたいかも」
きゃー!っと声が上がる。
「じゃあ告白を成功させるためにも着付けしてもらおう」
※
「できた!」
「おぉーかわいい」
クラスメイトから歓声が上がる。
薄い紫色の浴衣に花飾りをつけ、少しいつもと違ったメイクをする。たったそれだけなのに鏡に映った自分はまるで別人のように見えた。
「それだけ可愛かったらいけるよ!」
「うん!なんだか自信が湧いてきた!今日で決めてくる!
「おぉ!やっとその気になった!」
「ありがとう!行ってきます!」
小林は店をあとにする。
「いやぁ流石にかわいいなあれ」
「ついに舞にも彼氏ができるのかー」
「そもそもあのビジュでいない方がおかしいけどね?」
「んねー。ん?これって…」
そして時は現在。
あんなことを言って意気込んで出てきたはいいもののいざ一人ぼっちになると自信がなくなってきた。手鏡で何度もメイクと前髪をチェックし、着崩れがないかを確認する。集合時間が近づくにつれ、緊張が高まっていった。
「あ、小林」
「やっときたー遅いよー」
「遅いってまだ集合時間の30分前だぞ早い方だろ」
「……それよりどお?なんか言うことないの」
「え、いやまぁ。すごく可愛いと思います」
小林はわかりやすく笑顔になる。
「正解!じゃあ行こ!花火大会まだ時間あるし屋台周ろう!」
「正解ってなんだよ」
「おぉーすごい。花火大会っていうよりかほぼ、お祭りだね」
「まぁ夏にやってたお祭りと花火大会を合体させたって話もあるからすごい豪華になるよね」
「あ!焼きそば食べたい!」
小林が突然走り出す。
「おじさん一つください!」
「はいよ!お?いいねぇカップルかい?」
「うーん。ちょっと違う」
「おや、違うのかい。でもお似合いだよ。はい。お待ち」
「ありがとうございます!」
小林は嬉しそうに笑った。
「次はチョコバナナがいい!」
「ちょっと落ち着けよまだ焼きそば食べてないだろ」
「売り切れちゃうかもしれないじゃん!」
「えぇ…」
吉澤と小林はあちこち歩き回り、気づけば両手いっぱいにビニール袋を持っていた。
「なんだか…修学旅行を思い出す…」
吉澤はすでに疲れ切っていた。
「何さー野球部でしょー?これぐらい歩いてもらわなきゃ」
「関係あるかよ。てか1人でこの量食べ切れるの?」
「え?なんで?花火見ながら一緒に食べよ?」
「え?あ、うん」
ピーンポーンパーンポーン
「まもなく花火大会の座席を開場いたします。チケットをお持ちの方お並びの上、座席にご着席ください」
「お!もうすぐ始まるってさー行こ?」
小林がチケットを出すために巾着を漁る。
「吉澤ちょっとこれ持ってて」
吉澤に全ての食べ物を持たせてよく探す。が、チケットは見当たらない。
「…やばい」
「ん?どした?」
「ない…!」
「まさか!」
どこかでチケットを落としたのだろうか、家を出る時は確かに巾着の中に入れたはず。あと巾着の中をいじったタイミングは…着付け屋だ。スマホを取り出し画面を見るとクラスメイトからの不在着信が何通も入っていた。
「もしもし」
「舞!やっと気づいた!今どこにいるの?!チケット忘れてってどうするのさ!」
「どうしよう…今から取りに戻る時間なんて無い…」
「会場入らなくてもどこか見える場所ないの?」
「そんなこんな短時間で…」
「こんな肝心な時に!もう吉澤くんとどうするか決めるしかないでしょ?!わたしにはどうすることもできないよ」
「そうだよね…ありがとう」
「とりあえず頑張りな」
申し訳ないことをした。せっかくのチャンスを無駄にしてしまった。
「ごめん…チケット忘れちゃった」
今にも泣き出しそうな声で謝る。
「うーん」
吉澤は何かを悩んでいた。
「どうしたの?」
「その格好でさこの荷物を持ってできるだけ速く走れる?」
「え、う、うん。どうするの?」
「まぁいいからついてきてよ」
吉澤はそういうと、小林の手を取り走り出した。
「え」
着いた場所は学校だった。
「確か屋上へ行く階段は土日も施錠されてないはずなんだ。ほら開いた」
2人は階段を登り、屋上へと足を運ぶ。
屋上についたその時、ドンッという音が夜空に響き渡った。
「やっぱり!俺の予想通りだった」
吉澤はドヤ顔をした。
「ここから見えるの知ってたの?」
「ううん。ちょっとかけだったんだ。でも会場と学校はそんなに離れてないし、もしかしたらって思ってね。俺も楽しみにしてたし、せっかくなら見たいじゃん?」
本当はチケットで会場に入り、花火大会が始まったら耳元で告白する。そんな妄想をしていた。それがチケットを忘れて会場には入れず、挙げ句の果てに吉澤に助けられ、しかも2人きりで花火を見ることになった。そして嬉しいことも言ってくれた。楽しみにしていたのは自分だけだと思っていた。自分が想像していた形ではなかった。理想の場所でもなかった。でも溢れ出る気持ちを止めることはできなかった。
気づいた時には
「好き」
という言葉が口からこぼれていた。
「え…」
吉澤は困惑していた。
「あ、いや違くて!あ、別に違くはないんだけど…なんというかつい口が滑ったというか」
慌てふためく小林を見てさらに困惑する。
「一旦落ち着こ?」
「う、うん」
小林は深呼吸をした。
「それで…良かったらもう一回聞かせて?」
「うん。ずっと好きだったの!吉澤のことが…ずっと…でも今日こんな形になっちゃって…申し訳ないというか」
自分の意思とは反対に涙が溢れてくる。
それを見た吉澤は小林を優しく抱きしめた。
「大丈夫。気持ちは伝わったよ。俺もね小林のこと好きだったんだ。だから俺と付き合ってください」
「うぅぅ…はいぃ…」
真っ暗な夜空を花火が彩っている。場所は違えど形は違えど大きく実っていた蕾はついに開花を迎えた。それ祝福するかのように大きな音を立て花火大会はフィナーレを迎えていた。
※
「ちょっと落ち着いた?」
花火大会が終わり明るかった夜空が再び闇に包まれた。2人を照らすのは屋上にあった防犯灯だけだった。
「うん。ありがとう。相変わらず優しいね」
屋上にあるベンチに腰をかける。屋台で買った食べ物を広げ、2人で箸をつつく。
「ね。いつから私のこと好きだったの?」
いつもの調子を戻した小林はニヤニヤしながら吉澤を攻めていた。
「やだよ。そんなの恥ずかしいやん」
「えー?良いじゃん。教えてよ」
「じゃあ小林はいつから俺のこと好きだったの?」
「え!うーん私は高校1年生の時かなーみんなが私を雑に扱う中、吉澤は唯一部員として私を見てくれた。それがすごく嬉しかったなー。そこからかな意識するようになったのは」
「そっかそっか」
吉澤は嬉しそうにする。
「で?そっちは?」
「うーん言わない」
「えー!恥ずかしい思いして言ったのに!」
「あはは!まぁでもこれだけは伝えておくよ小林は昔から俺のことを支えてくれてたんだよ」
「え?どういうこと?」
「さて、夜も遅いしそろそろ帰りますか」
「うん!花火ありがとう。もうダメかと思ったけど…良い思い出になった!」
「ほんとチケットくれたクラスメイトには謝らなきゃね」
「うん…。あのさ、せっかく付き合ったんだし苗字で呼び合うのもなんか距離感じるから名前で呼び合わない?」
「そうだね。そうしよっか」
「じゃあ練習ね。た、た…ひぃ!恥ずかしくて言えない!」
「何してんだよ早く呼んでよ
「わかってるよ!た…たける!」
「うん。これからよろしくね。舞」
「ん」
花火大会が行われたこの日初々しいカップルが誕生した。
