勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

「――まあ、そんなに構えなくても大丈夫だ。ちゃんとおいしい料理にしてやるから」

 俺は保存食を作る前に魔獣肉を食べる抵抗感を取り除くために料理を作って振る舞うことにしたのだ。

「一番うまみがあって食べやすいのは一口サイズに切り分けたステーキだな。味付けはシンプルに塩とアクセントに胡椒を一振りするといい」

 俺は肉の塊を包丁で綺麗にサイコロ状に切り分けると焼く準備をする。

「こいつはよく厨房に使われている魔導コンロを小型化したものだ。野外で料理をする時に便利だから俺は魔導鞄に入れていつも持ち歩いている。そして肉を焼くフライパンもあるぞ」

 俺は魔導鞄から次々と料理に使う品を取り出してテーブルに並べていく。やがて、大きさを言わなければ立派な厨房と遜色ない設備で溢れていた。

「グラン先生はどれだけ料理がお好きなんですか!?」

 テーブルいっぱいに並べられた料理道具を見てセシリアが呆れた表情で口を開く。

「おいしいものを食べたいなら結局は自分で作るのが一番だからな。もちろん、街の食事処で料理人が作ってくれる料理はおいしいものが多い。だが、旅に出ている時はどうする? 材料が乏しい時は?」

 切った肉を温めたフライパンに放り込みながら俺はセシリアにそう問いかける。

「外での食事は……我慢するしかないですよね?」

「大勢で移動している時はそうだな。だが、俺は一人で旅することが多かったからな。そう言った時は街の食堂で作ってもらった弁当を食べたり、時には自分で素材を調達して料理をしていた。長いこと生きていると色々なことに興味をもったりするものだ」

 ジューと熱せられたフライパンの上で肉が焼ける音が響き、食欲をそそる匂いが部屋に充満する。

「良い匂いですね。凄く美味しそうな匂いがします」

「本当は全部作ってから食べてもらうつもりだったが、焼き立てが美味いのは間違いないからな」

 俺は準備していた塩とアクセントに胡椒をパラパラとふりかけてごろりと肉を皿の上に転がして乗せる。

「とりあえず食ってみろ。すぐに次の料理を作ってやるから」

「は、はい。いただきます。はふっ」

 セシリアは一口大に切り分けられたステーキをフォークで刺して口に運ぶ。目の前にある料理が魔獣肉を使っていることなど忘れているかのように躊躇なく口に入れたのだった。

「お、美味しい……ですぅ」

 シンプルに味付けされた魔獣肉のステーキは脂身が少ない特徴があるが、筋肉質といった筋張ったものでもなく高級肉のように口の中で溶けるように柔らかいはずだ。

「そうだろ? 魔獣は倒すのが大変だから狩る方も全力で戦う、ゆえに魔獣の身体はボロボロとなるからとてもではないが食べようと考える者は少ないのだろう」

 俺はセシリアに説明をしながら次の料理の準備を進める。ムーギを粉にしたものを肉にまぶして鳥の卵をくぐらせてから豆から搾った油を使いじっくりと揚げていく。魔獣肉のから揚げだ。

「揚げたては美味いが、熱いから気をつけて食ってみろ」

 網ですくった熱々のから揚げをセシリアの持つ皿に置いてやる。油がまだ高温なのだろうパチパチという音がかすかに聞こえる。

「これは食べたら熱くて火傷をするやつですね。先生はわたくしを殺したいのですか?」

「ははは。そいつは誤解だよ。美味いものを食って死ねるなら本望だろ?」

 俺が笑いながらそう言うとセシリアは覚えたての風魔法でから揚げを冷まそうと悪戦苦闘をする。

「なかなかいい実践経験になったようだが、もう少しレベルが上がればもっと簡単に冷ますことが出来るようになるぞ」

 俺はそう言うと氷魔法を軽くかけて冷ましてやる。それを見たセシリアは少し拗ねた様子で俺が冷ましたから揚げにフォークを突き刺したのだった。

「――こっちも美味しいですぅ」

 全身から美味しいとの声が出て来そうなほど喜びのオーラを出しながらセシリアが叫ぶ。

「魔獣肉もなかなかいけるだろ?」

「はい。とっても美味しかったです。でも、保存食にしたら味が落ちてしまうんじゃないですか?」

「それをさせないのが良い魔道具だ。ただ乾燥させるだけとかじゃないからな」

 俺は箱型の魔道具を手に持ち、蓋を開けるように二つに分離をさせる。それらをテーブル上に並べて左の箱の上に魔獣の肉を乗せると吸い込まれるように肉が消えた。右の箱には調味料を入れると同じく何処かに消えたのだった。

「素材は何処に消えたのですか!?」

「この魔道具には空間魔法が付与されていて見た目よりも多くの素材を入れることが出来るんだ。そして左の魔道具は乾燥させる機能がある。右の箱は調味料を加えて味を調えるだけでなく長期間保管できるようにする機能があるんだ」

 準備を済ませた俺は素材を取り込んだ魔道具を再び重ね合わせてから側面につけていた動作スイッチを起動させた。魔道具は魔石を動力原として動作しており魔力を持たない者でも使えるものだ。

「これで一時間ほど待てば完成だ」

「本当にこれだけで魔力回復作用のある保存食が作れるのですか?」

 セシリアは半信半疑でコトコトと動く魔道具を見つめている。見ていたからといって時間が短縮されるわけではないのだが。

「しかし、グラン殿は魔法だけでなく魔道具の作成も可能なのですね。この歳になるまで錬金術を目の前で見たのは初めてでして、大変驚きました」

 一連の出来事を見ていたジンは魔獣を食用にするアイデアに驚き、さらに俺が魔道具を錬金したことにも感嘆の声をあげた。

「ただ、非常に魅力的な話ではありますが、魔道具は大変高価なものだと聞いております。村の財政で魔道具の代金をお支払い出来る自信がありません」

 確かに今回の魔道具を錬金術師に頼んで作ってもらうとしたらそれなりの金額を請求されるだろう。だが、今回に限っては依頼の元は男爵家であり、さらに遡ると男爵家の財政難を解決するように俺に依頼をした侯爵家、つまりゼオンに責任があることになる。いざとなればゼオンに請求すれば良いだけのことだ。

「心配されなくても魔道具のお金を頂くつもりはありませんよ。この企画はこの村だけのものではありません。うまくいくようなら男爵家、ひいては侯爵家全体で考える案件だからです」

 俺はジンにそう言って笑みを浮かべたのだった。