勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

 ――ドドーン

 ブヒィ!?

 ムーギの真上で突然、光と爆発音が響いたのである。中に潜んでいた魔獣は慌てて逃げる行動に走った。当然ながら周りは柵で囲まれた畑なので侵入してきた穴を目掛けて飛び出してくる。

 ザザン。ブヒヒィ!?

 動揺して前方確認もせずに飛び出した奴は俺が仕掛けた網に飛び込み、見事に足を絡ませて身動きが取れなくなっていた。

「すっげー! 一発で魔角猪を捕まえちゃった」

 身動きが取れないと分かっていたせいかガイは魔角猪を怖がることもせずに飛び上がって喜びを表す。

「ふむ。やっぱり魔角猪だったか。だが、思ったよりは小物だったようだな」

 そこに転がっていたのは体長一メートルほどの魔角猪で身動きの取れないままに荒い息を吐いている。

「さて、こいつはもう身動きが出来ないからトドメは簡単に刺せる。わざわざ魔法を使う必要は無い」

 俺はそう言って魔法鞄から一本の剣を取り出して身動きの取れない魔角猪の心臓を一突きする。

 ――ブフフ

 苦しまないように俺は一突きに仕留めてやる。せめてもの優しさだ。

「こいつは余計な傷もないから持って帰って解体してみよう。この大きさだとそれなりの肉が取れるだろう」

「え? 魔獣のお肉って食べられるのですか?」

 俺の話を聞いていたセシリアが聞いてくる。

「昨日、昔話をした時に少しだけ触れたが、魔獣の肉は普通に食えるぞ。見た目に真っ黒な毛並みをしているから勘違いをしている奴は多いが、魔力回復に良い上に味も問題ない。そうだ、この魔角猪をどんどん捕らえて村の食料にすればいい。干し肉に加工もすれば他の町にも売ることも出来るし一石二鳥だ」

「それは名案だと思いますが、根本的な問題はひとつありますよ」

「なんだ?」

「《《誰が》》、《《どうやって》》捕獲するのでしょうか? グラン先生がこの村に常駐して捕まえるとか言い出したりはしないですよね?」

 それは考えていなかった。しかし、この村なら出来立てのエールが好きなだけ飲める可能性がある。それを捨てるのも惜しいことだ。

「時々なら来てもいいかと思っていたが、ゼオンに言われた依頼は男爵領全体の復興だからこの村だけに常駐は難しいよな」

「そうですよ。わたくしへの指導も日課にあるのですからドンスタンから拠点は移動なさらないでくださいね」

「わかっている。ゼオンとの約束もあるからな」

 始末をした魔角猪を魔法鞄に仕舞い込むと俺は辺りに探索魔法を張り巡らせる。一頭来たということは複数潜んでいる可能性が高いからだ。その予想は見事に当たる。近くに強い魔力を持つ魔獣の反応を捉えたのだ。

「さあ、今日のメインディッシュがお出ましのようだぞ。準備はいいか?」

 俺は影からハビルを出し、セシリアの側に待機させる。案内役であるガイも万が一にも怪我をさせるわけにはいかないので柵の中に入ってここから離れるように伝える。

「わかった。僕は隠れているから心配しないでアイツをやっつけてよ」

 ガイは俺の言葉にうなずくと出て来た穴から柵の中に避難する。素直な少年で助かる。

「――さて、来たようだ」

 この森の主なのだろうか、先ほどの魔角猪が子供に見えるくらい体格に差がある巨体を揺らしながら歩いてくる姿が見える。体長三メートルはあるのではないだろうか。

「お、大きい……。あんなのどうやって倒せばいいのですか?」

「あんなのは図体がでかいだけだ。まあ突進力だけは馬鹿に出来ないから気を付けないといけないが、頭は良くないから罠にすぐ引っかかるぞ」

「罠ってさっきみたいな網ですか?」

「いや。あいつは網くらいじゃ止まらないだろうし、今から準備しても間に合わないだろう」

「なら――」

「来るぞ! 魔法の詠唱を始めろ!」

 こちらの姿を認識したのだろう、魔角猪は前足に体重をかけると一直線にこちらに向かって突進してくる。なかなかの迫力だ。

「きゃあ! 来た! 来ましたよ!」

「慌てずに魔法を準備するんだ。いざとなればハビルが受け止めてくれる」

「え、えっと。魔法をイメージして詠唱を……あああ、もう来た! 無理、間に合わない!」

 三メートル級の魔獣が自分に向けて突進してくるのだ。初めての討伐では冷静に対処できるはずもない。予想どおりに慌てふためくセシリアの頭の上をふわふわ漂っていたハビルがため息と共に魔法詠唱を始める。

『――仕方ないな。物理障壁(ブロック・ウオール)

 ズズン

 一直線に向かって来ていた魔角猪はその巨体をセシリアの数メートル前で光の壁に阻まれ急停止する。

「と、止まった!?」

「ほら、今なら狙い放題だぞ。魔法はどうした?」

 俺はいっさい手を出さないつもりでセシリアに行動を促す。初めは恐怖から思考が止まっていたセシリアだったが、俺の言葉に我に返り慌てて魔法の詠唱に入る。魔角猪はハビルの物理障壁に強くぶつかった衝撃で気絶をしているようで、すぐに起き上がろうとはしていない。

「いきます! 火風弾(クロス・バレット)

 ハビルの魔法は物理障壁なのでセシリアの放つ魔法は通過して魔角猪へ直撃する。さすがに目の前の動かない巨大な的を外すことはなく気絶している魔角猪の心臓を討ち抜いたのだった。

「――まあ、初めてにしては及第点をやろう。もちろんハビルが居なかったら奴の突進に吹っ飛ばされて死んでいたかも知れないが結果オーライだ」

 笑いながら言う俺にセシリアは涙目になりながら抗議の声を発する。

「笑いごとじゃありませんよ! 本当に死ぬかと思ったじゃないですか!」

「あの程度の魔獣なら万が一にもハビルがしくじることはないと確信していたから手を出さなかっただけだ。それに最初から言っていただろ? 俺は手助けをするだけで倒すのはセシリア嬢の役目だって」