勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

「――どうだ? 勇者ゼオンが魔王を倒した時の話だ。これを聞いたら俺のやっていた役目など微々たるものだったと分かっただろう?」

「はい。グラン先生が勇者パーティー全員の命を守っておられたということがよくわかりました。やっぱり先生は最高の賢者様だと思います」

 一体何をどう捉えたらそんな結論となるのか分からないがセシリアの中で俺への評価が爆上がりしたことは間違いないようだ。

「ま、まあいい。それよりも明日は早い時間に行動することになる。もう休むんだな」

 ここで、俺の立場を説明しても時間の無駄になりそうだったので俺はセシリアに早く休むように促したのだった。

「――そろそろ出発の時間だ。気持ちの整理はついたか?」

 午前四時。今の季節だと夜明けが午前五時頃となるのを見越して討伐準備の最終確認をする。当然ながらセシリアも緊張の表情をしながらも装備品のチェックをしていた。

「はい。全てが初めてのことで何をすれば良いかもおぼつかない状態ですが、目的だけははっきりしていますので覚悟は出来ています」

「それでいい。なーに、始まってしまえば自然と身体は動くものだ。繰り返し鍛錬したことは絶対に裏切らないからな」

 俺はセシリアの頭を軽くポンと叩くと一緒に村の広場へと向かう。そこには白髪の老人と齢十二、三歳の少年が待っていた。

「初めまして、村長のジンと申します。今日は魔獣の討伐を引き受けてくださり、ありがとうございます。ここに居る若者は私の孫でガイといいます。現場案内を言い付けておりますので一緒にお連れください」

 村長のジンが挨拶をすると、傍に控えていたガイが頭をさげてから挨拶をしてきた。

「ガイです。じいさ……そ、村長から被害現場への案内をするように言われたので同行します。ただ、正直言って戦力にはなれそうもないです。すみません」

 ガイがそう言って申し訳なさそうな表情をする。案内役に村長の孫とはいえ少年が抜擢されたことには違和感を覚えたが俺は特に言及しなかった。

「そうか。案内を宜しく頼む」

 俺がそう言って笑みを見せるとガイはホッとした表情を見せて頷いたのだった。

「――ここから先がムーギ畑になるんだ。畑の周りには侵入止めの柵が立てられているんだけど魔獣(あいつら)は柵なんて関係ないとばかりに壊して侵入してくるんだよ」

 俺の横を歩きながらガイが畑の状況を話してくれる。さっきは村長が居たから真面目な話し方だったが、目上がいなくなると普通の少年の話し方になって安心する。

「どこから来るのか分かっているのか?」

「だいたいね。奴らは森に面した所から入ってくるから森の中に住んでいると思ってる」

 侵入する魔獣の駆除だけかと思っていたが、近くに森があるとなれば魔獣の巣があるのかもしれない。最終的にはそれも確認しておかなければ被害は止まらないかもしれない。

「あ、この辺りでも見かけたって言ってたよ」

 夜が明けたばかりでまだ薄暗いが、見事な黄金色をしたムーギが風に揺れているのが見える。その先には畑を守る為に設置したのだろう木の柵が延々と畑に沿って立てられている。

「結構頑丈に作られている柵だと思うが、やはり魔角猪が相手では強度が足りないのだろうな」

 目線の高さまである柵に手を当ててそう呟くように言う。それが聞こえたのかセシリアが俺に質問をしてきた。

「この柵の強度が足りないとして対策をするならどういったものが考えられますか?」

「そうだな。根本的に強度不足というのなら柵の素材を変えるしかないだろう。たとえば鉄で作るとかな」

「鉄ですか。しかし、これだけの面積を囲む柵を全て鉄製品に変更するとなると莫大な費用が掛かりますよね? それでなくとも財政難の領政費からの捻出は難しいものがありますよね」

「ならば、侵入経路である森側のみ変更するといった手もある。まあ、それでもかなりの手間と費用がかかるだろうがな」

 俺は現実的な回答をするが、別の道はないかとも考えていた。しかし、今ここで議論している暇はないので見回りを優先させることにした。

「まあ、考えてみるさ。それより、奴らが動き出す時間だ。気を引き締めておけよ」

 俺がそう言った次の瞬間、少し離れた場所で大きな音が響くのが聞こえた。

「どうやら、今日もお出ましのようだな」

「あまり大きな魔獣でなければ良いのですけど……」

「さて、どうかな。確認に行くぞ」

 危険回避のため、俺が先頭を歩くことに。音の聞こえた辺りに差し掛かるとブフフという鳴き声と共にガサガサとムーギ畑を歩く音が聞こえる。どうやら魔獣が侵入しているのは間違いないようだ。

「ここから入ったのか。せっかく直しても毎回壊されていたら堪らないものだな」

 見事に大穴の開いた柵を見て俺は溜息をつく。そしてムーギ畑に視線をやると方針を決める。

「このまま奴に向けて魔法を撃つとムーギ畑にも甚大な被害が出ることは間違いない。罠を張っておいてから奴を追い出したほうが効率いいだろう。今回は初めてだからどうやるか見ているがいい」

 俺はそう二人に告げると、壊された柵の反対側に魔法鞄から取り出した網を設置する。

「まずは一匹、退治してくれる」

 二人を安全な場所に移動させた俺は魔獣が入り込んでいるであろう場所に花火のように光と大きな爆発音がするだけの魔法を放り込んだのだった。