【完結】生徒会長と副会長が付き合っているらしいが、苗字オタクの俺にとって問題はそこじゃない!

「御薬袋先輩、式神先輩。俺の相談に乗ってもらってもいいですか?」

 放課後となり、生徒会室を訪れた俺は先に生徒会室に着いていた御薬袋先輩と式神先輩にそう声を掛けた。
 そんな突然の問いかけに、なんだなんだと目を輝かせる御薬袋先輩と、そんなお菓子を買ってくれると思い込んでいる子どもに手を焼く母親のようなため息を吐く式神先輩は「とりあえず座りなよ」と椅子を引いてくれた。
 俺は席につき、一息置く。
 よくアニメや漫画に出てくるような生徒会だけが使えるような給湯室は存在しないため、お茶やコーヒーなどが出てくるわけではないが、俺にとって生徒会室で過ごす時間はカフェのような居心地の良い場所になりつつあった。

「それで? 相談というのは?」

 御薬袋先輩の後ろであるはずのない尻尾がブンブンと凄まじい勢いで振ってあるのが見える。生徒会長である御薬袋先輩は本当に犬のようで、頼ってもらえるのが嬉しいのか今にも飛び跳ねそうな勢いのまま、俺に問いかける。
 俺は少し間を置き、覚悟を決めてから相談内容を話す。

「こ、告白をされました。親友から」
「親友というのは、失礼かもしれないけど性別は男性ってことかい?」

 御薬袋先輩からの問いに俺は頷きで返事をする。
 それを確認した御薬袋先輩は少し微笑みながら「そっかぁ」と何やら嬉しそうに言葉を零した。そしてそのまま腕を組むと、一度式神先輩に目配せを行い、何かを確認してから俺に新しい問いかけを行う。

「それで、禄助くんは告白を受けてどうしたの?」
「……すぐに返事を出すことができませんでした」
「……それは親友だと思っていたから?」

 確信をついた質問だと思う。
 と、いうよりかは何処かで見ていたんじゃないかと思うほど、俺の心の中を覗き込んだかのような質問であった。

「それも、あります」
「それも?」
「……俺が返事を出す前に、『これからも親友でいさせてくれるか』って言われたんです。それに俺は『当たり前だろ』って答えたんですけど、それは夜一が気を使ってくれたんだと思うんです。俺がすぐに結論を出せないから」
「そっか。じゃあ今禄助くんは自分の気持ちが何なのかを理解していない状態なんだね?」

 やはり御薬袋先輩は俺の心を覗き込んでいるのかもしれない。
 いや、そうでなければ説明がつかないほど、的確に俺の悩みを理解している。
 正直怖いが、コレが彼が生徒会長である所以なのかもしれない。
 人の気持ちを理解して、それを言語化できるのは才能だと、俺は思うからだ。

「はい……。好き、ではあると思うんです。ただその俺の『好き』っていう感情がラブなのかライクなのかがわからなくて……ですね」
「それが相談の内容ってこと……かな? 好きの意味を知りたいって感じ?」
「……はい」
「じゃあ告白の返事をしなかったのは、親友でいたいって気持ちもあるけど、その親友に対する気持ちが自分の中で整理がつかないってことなんだね」

 話を聞いていた式神さんが俺の話をまとめてくれた。
 ここまで話しておいて恥ずかしい気持ちもあるのだが、そんな俺の話を茶化すことなく最後まで聞いてくれた御薬袋先輩と式神先輩には恥ずかしさを上回る感謝の気持ちでいっぱいだ。
 相談相手として二人を選んだのは間違いではなかったのだ。

「そこでお二人にご相談なのですが……好きとは、なんでしょうか?」
「……」
「……」

 俺のその問いかけに対して、御薬袋先輩も式神先輩も黙り込んでしまった。
 流石に相談内容がよくなかったのかもしれない。好きとは何なのかという質問は大人でも答えるのが難しいだろうし恥ずかしい内容だと思うが、そんな内容を高校生が答えるというのはとても困難なものなのかもしれない。
 しかし、俺としては真剣なんだ。
 夜一と親友でいられなくなるかもしれない。
 もしかしたら今後、夜一と話すことすらできなくなるかもしれない。
 親友でいてくれるとは言ってくれたものの、それでは勇気を出してくれた夜一に失礼ではないだろうか。
 というか、そもそも笠原先輩が余計なことを言わなければ、こんなにも悩む必要がなかったのだと考えると、なんとなく笠原先輩に対して殺意とまでは行かないものの、徐々にではあるが怒りが込み上げてきた。
 俺が右手を強く握ると、御薬袋先輩が口を開いた。

「恥ずいから誰にも言うなよ」
「え……、答えてくれるんですか?」
「まぁ、可愛い後輩が悩んでるなら力になってやりたいだろうが……。まず業のことを好きになったのは俺からで、告白したのも俺から。理由は業が他の誰かと付き合うのが許せなかったからって感じだ」
「誰にも取られたくなかったってこと……ですか?」

 御薬袋先輩が恥ずかしいのだろう。顔が夕日が差し込んだかのように赤く染まっており、恥を忍んで俺に話してくれていることがわかる。
 そしてそんな御薬袋先輩を恥ずかしがりながらも、どこか嬉しそうに頬杖をつきながら式神先輩は御薬袋先輩の顔を覗き込んでいた。

「ゴッホン。まぁそんなところだ。あとは……だな。業とは全てを分かち合いたいと思ったからかな。二人だけでいたい。二人だけの世界を分かち合いたいと思ったんだ。他の誰かに取られる前に自分のものにしたくなった。他の全てを犠牲にしても後悔はしないなと思ったんだよ」

 なんだかとてつもない惚気を聞かされた気がする。
 しかし、御薬袋先輩の言葉を聞いて、自分の心が動いた気がする。

 他の誰かに取られる前に自分のものにしたい。
 他の全てを犠牲にしても後悔はしない。

 この気持ちを俺は夜一に対して持つことが出来るのだろうか。
 それが分かれば、夜一に抱いている『好き』という感情がラブなのかライクなのかを判断することが出来るかもしれない。
 俺は希望が見えてきたことで、少しだけ気分が晴れたような気がした。

「ちなみに何処が好きだって言ってもらったの?」

 俺がガッツポーズをして天を仰いでいると、今度は式神先輩が質問をしてきた。
 式神先輩の口角は限界まで上がり、目は三日月の形になっていた。
 その表情には「自分たちは恥ずかしい話をしたんだから、お前も恥ずかしい思いをしろ」と無言の圧力を感じる。
 俺はそっと御薬袋先輩に視線を向けると、彼も同じような表情を浮かべていた。
 コレは逃げることができない。そう感じた俺は渋々ながらも口を開いた。

「……自分の好きなものを好きだと言えるとコトが好きだと言ってくれました。あとはそんな苗字オタク気質なところがあるにも関わらず、夜一と仲良くしてくれたところ、だそうです」

 顔が熱い。
 自分の言葉ではないが、いざ口にしてみると夜一からの想いが今更になって伝わってくる気がする。
 どんな告白をされたのかと先輩方に知られて恥ずかしいという感情よりも先に、汪汪(おうおう ※涙をためているさま という意味があります)と涙が溢れてくる感覚に溺れる。
 俺はそこで、顔が熱かったわけではなく、目頭が熱くなっていたのだと理解した。
 止めようとしても止まらないそれを必死に抑える。
 御薬袋先輩は立ち上がり、俺の背中を擦る。涙を流した相手に「どうしたんだ?」とか「大丈夫?」など声をかけるわけでもなく、ただ無言で背中を擦る彼に式神先輩が告白を受け入れた理由がなんとなくわかった気がする。そんな彼の優しさに惹かれたのだろう。
 式神先輩はポケットからタオルハンカチを取り出し、それを俺に渡すわけではなくタオルハンカチの縁で溢れ出した涙をそっと撫でる。この人に任せるのではなく、自分に出来ることをする優しさに御薬袋先輩は惹かれたに違いない。

 俺は声を殺して涙を流し続けた。
 もう答えは出たのだ。

 夜一と遊ぶ金欲しさにアルバイトをしている理由も、夜一が行くと言ったこの加納高等学校に頑張って入学した理由もすべて。
 その全てを俺は理解した。

 あぁ、コレが『好き』なんだと。
 俺も夜一と同じ気持ちだと。

 俺は顔を上げて「ありがとうございます。もう大丈夫です」と告げる。
 そんな俺の表情は涙を流してはいたものの、笑顔だったに違いない。
 「今日はもうゆっくり休め」という御薬袋先輩に背中を押され、生徒会の仕事があったにもかかわらず、俺は先に帰宅をした。

 夜一と付き合うことになったら、改めて御薬袋先輩と式神先輩にはお礼を伝えないといけないな。とそう思いながら、涙で真っ赤になった瞳を擦り、前を向いていた。


▽▽


 夜一に自分の気持ちを伝えようと思う。
 昨日生徒会の御薬袋先輩と式神先輩に相談して、俺自身も夜一が好きであることを自覚した。
 親友でいたいという気持ちはありつつも、それ以上になりたいという気持ちが芽生えたのだ。
 しかし一晩中考えても、告白の言葉は思いつかなかった。
 普段自分が思ったことを口にしてしまう癖のある俺だからこそ、考えてそれを言葉にして相手に伝えるという行為がどうも苦手なようだ。
 我ながら自分の頭の悪さにはため息がでる。
 この加納高等学校に受かったのだってきっと奇跡に近いものだろう。
 いや、今考えれば夜一と一緒にいたかったからこそ勉強を頑張ったのだ。恋は人を強くするのだと思う。きっと俺は夜一のことが好きだと自覚するよりもずっと前から夜一のことが好きなんだ。

 そんなことを昨夜ベッドの上で考えていたところ、いつも通りの時間に目を覚ますことはできなかった。
 つまるところ、寝坊をしたのだ。
 こんなコトは初めてだ。
 きっと恋をすると人はその相手のコトしか考えられなくなり、自分のコトはおざなりになってしまうというのは本当なのかもしれない。
 しかし今はそんなコトはどうでもいい! 俺の唯一の自慢は健康体であることだ。そのため無遅刻無欠席を小学生のころから継続しているため、たかが寝坊ごときでこの記録を途絶えさせるわけには行かない。
 俺は急いで支度をし、朝食を食べることなく家を出る。
 玄関の扉を開けると後ろから「いってらっしゃい! 気をつけるのよ!」と母親の声がした。それに俺は「いってきます! 朝ごはんごめん!」とだけの簡素な返事をして学校へと向かう。

 学校へと向かう道中はさすがにもう学生服を着た生徒の姿はどこにもなかった。
 これはかなりよろしくない状態である。
 一応生徒会のメンバーとして遅刻はしたくない。
 俺はさらに足の回転を速めた。

 ホームルームの開始を告げるチャイムが学校中に鳴り響き、その音が消えるほんの数秒前に俺は教室に入ることに成功した。
 つまりギリギリ遅刻では無いという認識だ。
 しかし俺のことを嫌っている担任の犬養はこれでも遅刻と判定するかもしれない。
 俺は少し大きなため息を吐く。これは深呼吸も兼ねてのため息だ。全速力で駆けてきたため、息が絶え絶えだ。自分自身を落ち着かせるためにも重要なため息である。
 俺は俯いたまま、呼吸を整える。
 本来ならここで犬養からの罵声が飛んできてもおかしくないのだが、不思議と雷は落ちてこない。
 もしかしたら呆れてものも言えないのかもしれない。なんて思いながら顔を上げると、そこには犬養はおらず、クラスメイトが俺のことを心配そうな目で見つめていた。

「え、あ、え? お、おはよう?」

 しかし誰も俺に挨拶を返してくれない。
 もしかして嫌われるようなことをしてしまったのだろうか。
 今まで二年一組にいじめなんてものは無かったが、ここにきて俺がいじめの標的になってしまったのだろうか?
 そんなアリもしない妄想が俺の脳内を高速で駆け巡る。

 いまいち状況が掴めていない俺であったが、夜一が他のクラスメイトとは比にならないほどの心配をする表情をしたまま、俺に近づいてきては両肩を押さえた。

「だ、大丈夫か?」
「え、うん。だ、大丈夫。今日はたまたま寝坊しちゃって――」
「そうじゃなくて!」

 俺が言い終える前に夜一は強く俺の言葉を遮った。

「生徒会長と副会長が………………」
「え? 御薬袋先輩と式神先輩がどうしたんだ?」
「――んだって……」
「え?」
「だから! 停学処分だって!」
「……………………はぁ?」

 俺は夜一の言葉を理解するのに時間がかかった。
 いや、時間が掛った今でも、理解をすることができないでいた。