柔一朗と詩季も祭壇前の定位置へ進み、ご神木へと祈りを捧げた。
神官長の祝詞が終わると、神官が二つの小さな盃を恭しく差し出す。
神前へ供えられていたお神酒だった。
無事に神事を終えて、詩季も片づけを手伝おうと動こうとした時だった。
「――苦手なんだろう」
隣から不意に柔一朗の低い声が放たれた。
「……え?」
「――神酒」
さらっと柔一朗に告げられ、詩季は躊躇いながらも頷いた。
「申し訳ないのですが、実は少しだけ苦手です。神前のお神酒ですから、失礼があってはいけないと思いまして……」
柔一朗は僅かに首を横へ振った。
「――無理をして飲むものではない」
低い声色だったが、その声は責めるのではなく、詩季を気遣っているのだとわかった。
「どうして、柔一朗様はおわかりになったのですか?」
詩季は首を傾げながら柔一朗に問いかけた。
「飲むたびに、少しだけ眉を顰めている」
柔一朗の答えに詩季はすぐに返答できなかった。
初めて柔一朗と会って夫婦になった神契の儀の時も、毎朝の神事でも、詩季はお神酒をいただいている。
柔一朗とは夫婦といえども、ほとんど会話を交わさず、詩季を見ていないのだと思っていた。
(柔一朗様は言葉にしなかっただけで、私のことを気にかけてくれていたのだわ……)
「気づいてくださっていたんですね」
詩季が笑顔を見せると、柔一朗の端正な顔立ちは表情を変えなかった。
「無理はしなくていい」
「いえ、慣れてきていますので大丈夫です」
「そうか」
ご神木の梢を、夏の夜風が静かに吹き抜けていく。
祭りは終わる。
けれど詩季の胸には、柔一朗が見せてくれた蛍のように小さな灯が一つともったような気がしていた。
神官長の祝詞が終わると、神官が二つの小さな盃を恭しく差し出す。
神前へ供えられていたお神酒だった。
無事に神事を終えて、詩季も片づけを手伝おうと動こうとした時だった。
「――苦手なんだろう」
隣から不意に柔一朗の低い声が放たれた。
「……え?」
「――神酒」
さらっと柔一朗に告げられ、詩季は躊躇いながらも頷いた。
「申し訳ないのですが、実は少しだけ苦手です。神前のお神酒ですから、失礼があってはいけないと思いまして……」
柔一朗は僅かに首を横へ振った。
「――無理をして飲むものではない」
低い声色だったが、その声は責めるのではなく、詩季を気遣っているのだとわかった。
「どうして、柔一朗様はおわかりになったのですか?」
詩季は首を傾げながら柔一朗に問いかけた。
「飲むたびに、少しだけ眉を顰めている」
柔一朗の答えに詩季はすぐに返答できなかった。
初めて柔一朗と会って夫婦になった神契の儀の時も、毎朝の神事でも、詩季はお神酒をいただいている。
柔一朗とは夫婦といえども、ほとんど会話を交わさず、詩季を見ていないのだと思っていた。
(柔一朗様は言葉にしなかっただけで、私のことを気にかけてくれていたのだわ……)
「気づいてくださっていたんですね」
詩季が笑顔を見せると、柔一朗の端正な顔立ちは表情を変えなかった。
「無理はしなくていい」
「いえ、慣れてきていますので大丈夫です」
「そうか」
ご神木の梢を、夏の夜風が静かに吹き抜けていく。
祭りは終わる。
けれど詩季の胸には、柔一朗が見せてくれた蛍のように小さな灯が一つともったような気がしていた。



