先程も優次郎が言っていたが、聞いたことのない言葉だ。
「瑛気とは、一部の人間のみが持つ特殊な力。ある者は炎を操り、ある者は物を宙に浮かせる。その力は人によって様々ですが、すべて瑛気と呼ばれる特殊な力によるものです」
そこから千輝が語った話は、まるでおとぎ話のようだと思った。
瑛気は数百年前に突然表れたという。
人ならざる力を持つ者を人々は恐れ、化物と蔑んだ。だが時代の移り変わりとともに瑛気を持つ者は選ばれた尊き人間とされ、いつしか瑛気を持つ者——瑛人が世を統べるようになった。
「当時瑛気を持つ五名の瑛人が瑛国議会をつくりました。彼らの一族は五瑛家と呼ばれるようになります」
「五瑛家は瑛人社会と非瑛人社会を完全に分断した。瑛気の存在は完全なる秘匿としたんだ」
「人は異端を排除しようとする生き物ですから、瑛気を世間に広めないことで一族を守ろうとしたのでしょう」
次から次へと難しい言葉が羅列し、灰理は半分も理解できていないと思いながら聞いていたが、人々が異端を排除しようとするのは理解できた。
それこそ髪色が他とは違う、不死という特殊な体質が理由で虐げられてきた灰理は身をもって実感している。
「瑛気を持つ者は、瞳の色が異なります。宝石のように見えることから、瑛気と呼ばれるようになったそうです。だがごく稀に瞳ではなく髪色が異なる者が生まれます」
「それが、父ということですか?」
「その通りです」
髪色が異なる者は、通常よりも強い瑛気を有する証拠だ。
実際に理人は高い治癒の瑛気を持ち、人も動物もその手をかざすだけで瞬時に癒せた。
どんな怪我も病も治す理人は、救世主と呼ばれていた。
「私は叔父上を心から尊敬しています。生前叔父上は父よりも優しく、幼い私を導いてくださいました。そんな叔父上が言っていました、自分には娘がいるのだと」
理人は実は千輝よりも五つ年下の娘がいるのだと、優しそうな笑みをたたえて語っていたという。
「いつか私に紹介するから可愛がってやってほしいと言っていました。ですがその前に叔父上は病死しました」
千輝は目を伏せ、灰理は俯く。
「それ以来ずっとあなたを探していました。手がかりは何もなく、どこを探せばいいのかもわからない状況でした」
理人の遺品の中にも妻と子に関するものはなかった。
野花と灰理を守るため、二人に繋がるような情報は一切残っていなかった。
優次郎は本当に娘がいるのかと疑っていたが、他でもない理人本人が言っていたのだと千輝は信じて探し続けた。
「私には、時間がない」
「え?」
「あ、いえ、なんでもありません」
千輝はこほんと咳払いする。
「ある時奇妙な噂を聞いたのです。山奥に金色の髪を持つ少女がいると。それを聞いた時、私は心が震えました」
すぐに友人である優次郎に話すと、優次郎はその少女について調べてくれた。
「調べてみれば、そいつは不死の化物姫と呼ばれているそうじゃないか。俺はそれを聞いてすぐにピンときた。治癒の瑛気を持っている女がいるんじゃないかとな」
「ようやく見つけたと思いました。間に合ってよかった……」
すぐに千輝と優次郎はその少女が住んでいる山小屋を訪ね、今に至るというわけだ。
「やっとあなたにお会いできました」
「私に……」
情報量が多くて頭がこんがらがりそうだ。
その上今までかけられたことのない言葉の数々に、灰理は自分の気持ちを表現できなかった。
こんなにも優しく感激したような瞳を向けられ、「ずっと会いたかった」と言われてどうしていいのかわからない。
ひとつひとつ気持ちを整理していくことから始めた。
まずずっと疑問に思っていた自分の体のことがわかった。すべて父から受け継いだものだった。
(お父さまが一緒に暮らせなかった理由もわかったような気がする……)
きっと母とは身分違いの恋だったのだろう。瑛気のことを全く知らなかった点を考えると、全体から見れば貴族とはいえ黒須家の地位はかなり低かったのだと窺える。
知らなかった点が一気に紐解かれ、情報過多でまだ頭が混乱しているが一番気になったことを尋ねた。



