「ところで千輝様、どこに向かっているのですか?」
左京との面会後、気分転換も兼ねて二人で出かけようと誘われていたが、行き先は教えられていない。
千輝と一緒ならどこでもいいので、とりあえず彼の進む道を歩き続けていた。
だんだんと坂道になり、どこへ向かって登っていくのだろうと尋ねてみた。
「ここです」
「ここは……」
「叔父上が眠っています」
連れられた場所は、海の見える丘の上だった。
そこに墓石が佇み、紫上院理人と刻まれている。
灰理は墓石に近づき、そっと触れて指でなぞる。
「お父様……」
「本当はもっと早く連れてくるべきだったのに、遅くなって申し訳ない」
灰理はふるふると首を振る。
墓石の前でしゃがみ込み、灰理はじっと手を合わせた。長いこと手を合わせ続けた。
それだけ父に話したいことがたくさんあった。
「連れてきてくださってありがとうございます」
「なんでこんな丘の上? って思ったと思うけれど、叔父上の希望だった。見晴らしのいい、海の見える場所に埋葬してくれって」
「海……」
「何故なのか、理由は教えてくれなかったけど」
「母と、出会った場所だったからだと思います」
一度だけ、母親に聞いたことがある。
理人とはこの丘のように、海の見える高台で出会ったのだという。
望まない結婚をさせられそうになり、家を飛び出した野花は闇雲に走ってある高台に辿り着いた。
途中木の枝に引っかかり、腕や顔をすりむいた。傷ものの娘と知ったら破談になるだろうかなどと考えていたら、理人と偶然出会ったらしい。
「その時、お父様が傷を治してくれたと。その時は手当てをしてくれたのかと思っていましたが、きっと治癒だったのですね」
それから二人は何度か高台で一緒に海を見て、互いに惹かれあっていったらしい。
「千輝様、お願いがございます」
「何?」
「母を同じ墓に入れさせてもらえないでしょうか」
一度は家族の縁を切ったからと、野花は黒須家代々の墓には埋葬してもらえなかった。
とある墓地の一角に寂しくぽつんと埋葬されている。
黒須家に未練はないが、母を残してきてしまったことだけは心残りだった。
「二人一緒にいさせてあげたいのです」
「もちろん」
千輝は優しく微笑む。
「その方が母君も喜ばれる」
「ありがとうございます」
生前理人と野花は一緒にはなれなかった。
せめて同じ墓の中で眠って、これからずっと一緒にいてほしい。その願いを叶えてくれる千輝には感謝しかない。
最後に二人で結婚の報告をし、手を繋いで丘を降りた。
「こうして二人でゆっくり過ごせるのも、今日が最後だね」
現当主だった左京と跡取り候補だった蘇芳が逮捕され、千輝が正式に公爵を継ぐことになる。
千輝の体調回復が最優先だったので後回しにしていたが、正式な爵位の継承をしなくてはならない。
何しろ世間では紫上院公爵が殺人の容疑、その長男が殺人未遂で逮捕されて大騒ぎになっている。
千輝が目覚めない間は直道が報道を何とか食い止めていたが、千輝は事実を明らかにした。
非難が殺到するのは百も承知で、それでも事実を明るみにした。
事実から逃げない、それが公爵を継ぐ千輝の覚悟だった。
正式に婚姻を結べば、灰理は公爵夫人となる。
その大役を務められるのかどうか、全く不安がないと言えば嘘になるが、灰理も覚悟を決めている。
何があっても隣で千輝を支える。
もう自分なんか、と卑下したりはしない。千輝は灰理を必要としてくれていて、心から大切に思ってくれている。
不死の化物姫と呼ばれていた頃も再生力の瑛気が弱まり、髪が枯葉色に変わった灰理のことも、千輝はありのままで受け入れてくれた。
そんな自分に誇りを持ちたい。自分にできることを全力でやる、それでいいのだと思えるようになった。



