どす黒い嫉妬心を抱えていても、兄上は立派だと真っ直ぐに見つめてくる理人が眩しすぎて、惨めで苦しかった。
理人が清廉潔白だからこそ、自分がドロドロに醜いと突きつけられている気持ちになる。
「息子たちに跡目争いをさせたのは、実力で勝ち取らせたかったからだ。跡目を譲られた自分とは違い、個々の実力で周囲を認めさせたかった。だが理人にあの子たちが可哀想だと言われ、カッとなってしまった」
貴様に何がわかる、当主であり父親は自分だ。貴様は口を出すな——そう怒鳴ってしまった。
理人は「出過ぎた真似をしました」と謝罪し、静かに退がった。
本音は心のどこかで理人が正しいのだと思っていたが、どうしても受け入れられなかった。
自分は紫上院家の公爵として、間違っていない。正しいと言い聞かせなければ己の地盤が揺らいでしまうような気がした。
そしてその正しさの証明を、左京は誤った。
風邪をひいた理人に腐食の瑛気を混入させた風邪薬を飲ませた。
「すべては、私の弱さが招いたことだ……」
理人の体内を蝕み、やがて黒い痣ができた。
痣はどんどん広がっていき、理人は日に日に弱っていった。
「弱っていく叔父上を見て、どのような気持ちでしたか?」
「……見て見ぬふりをしていた」
左京の手錠で繋がれた手は、震えていた。
「自分は悪くない、自分は間違っていないと無理やり正当化していた。理人が亡くなっても、自分のせいではないと言い聞かせていた。……それを知った蘇芳が、同じ罪を犯すとも知らずに」
ポタリと机の上に雫が落ちる。
左京は頭を抱え、震えながらボロボロと涙をこぼす。
「私のせいで理人も……っ、蘇芳も千輝も傷つけ苦しめた……っ。どうして私は、何もかも壊してしまうのだろう……」
「父上……」
「すまない、すまなかった千輝……! 蘇芳、理人……私は……っ」
拘置所の面会室に悲痛な男の泣きじゃくる声が響き渡る。
ずっと畏怖の対象だった父は、長年葛藤し苦しんでいたのだと初めて知った。
家族に愛されたくて必要とされたくて、そして自分も家族を愛したかったのに上手く愛せなかった——そんな不器用な人間が、左京という人間の本質だったのだ。
「……申し訳ございません。私は今まで、父上のお心を知ろうともしませんでした」
「ちがう、お前は悪くない。私がすべて悪いのだ……」
「父上……!」
「生きていてよかった……千輝」
こうして生きて父と話せているのは、間違いなく灰理が救ってくれたおかげだ。
「灰理が、私の命を救ってくれました」
「あの娘……理人の娘なのだろう?」
「——はい」
「やはりな……理人によく似ている」
何事にも聞き分けがよかった理人が、人生で一度だけ我儘を言った。
「当時いくつもの縁談があったのに、理人は結婚したいひとがいるといって聞かなかった。しかもその相手が誰なのか言いたがらない。当然大反対されて一度は別れると言ったが、やはり別れていなかったか」
その後も縁談は舞い込み続けたが、理人は誰のことも受け入れなかった。
自分には心に決めたひとがいる、いつかそのひとを迎えに行くのだと。
きっと相手の女性が非瑛人と知られたら、忘却の瑛気をかけられて引き離されるとわかっていたからだろう。
妻と子を守るため、表向きは別れたと言っていたらしい。
「やはりお前は、理人の血筋に惹かれるのか」
「違いますよ、叔父上の娘だから惹かれたのではありません。灰理だから、愛しているのです」
そうきっぱりと言い切る千輝を見て、左京は項垂れ再び涙をこぼす。
「……私もそのように、愛してやりたかった……」



