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ガタリという音がして、扉が開いた。
灰理はハッとし、希望を込めて振り返ったが瞬時に打ち砕かれる。
扉の向こうから現れた男を見た瞬間、灰理の背筋を冷たいものが走ったが驚きはしなかった。
頭の片隅で蘇芳色の瞳の男が現れると予感していたからだろう。
紫上院蘇芳はカツカツと靴音を鳴らして灰理に歩み寄り、グイッと灰理の口元に当てた布を首元までずらした。
「……っ! はあ……っ」
「よう、お目覚めのようだな」
「蘇芳様、ですね……」
灰理はゴクリと唾を飲み込み、繋がれたまま体を後ろに逸らす。
蘇芳は毒々しい笑みを浮かべ、楽しそうに灰理を見つめる。
「安心しろ、明日には帰してやる」
「明日……?」
「丸一日お前と千輝を離したら十分だろう? あいつがくたばるまで」
「やはりあなたなんですね! 千輝様に毒を盛ったのは!」
「しっかり殺せと言ったのに、しぶとい弟だ。まさか三年も生き延びるとはな」
蘇芳はチッと舌打ちする。
「あいつさえいなければ、俺が当主なのに」
「っ、そんな理由で……っ」
「黙れ! 非瑛人のボンクラに生まれたお前にはわからないんだよっ!」
「いたっ」
蘇芳はガシリと灰理の髪を掴み上げ、唾を飛ばすくらい怒鳴った。
「水の瑛気は汎用性高く強力な能力だが、珍しい瑛気ではない。だが千輝の光の瑛気は初代当主以来の稀有な瑛気だ。かつて紫上院が頂点に君臨したのは、初代の光の瑛気があったからだ」
「い、いた……っ」
「お前のような能無しにはわからないだろう! 強力な力を持ちながら弟に奪われる俺の気持ちがっ!」
「う……っ」
「あいつさえ生まれてこなければ! 長男の俺が正統な後継者だったんだ!」
蘇芳は段々と興奮するにつれて灰理の髪を掴む手にも力が入る。
鷲掴みにした後、まるで球を投げるように灰理を壁まで突き飛ばす。
灰理の額からツーと生温かい鮮血が滴るが、その傷もすぐに塞がっていくのを実感した。
「……なるほど、本当に自分を治癒できるんだな」
「……っ」
「その奇抜な髪は叔父上と同じだが、瑛気はまるで無能か」
非瑛人の世界では化物と忌み嫌われたこの力は、瑛人の世界では無能になるらしい。
価値観が変わるだけでこうもひっくり返るのかと思った。
「千輝はやたらと叔父上に懐いていたが、地位を捨て医者なんぞに成り下がった人の何が良いのか理解に苦しむな」
(この人を見ていると、今の瑛人社会がどのようなものかよくわかるわ)
力がすべてで持たない者を見下し、差別する。権力を手に入れるためなら実の弟すらも殺そうとする。



