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その日、千輝は議員の執務室で書類仕事に追われていた。
今まで休職していた分、山のように書類が積み上がっている。
それらをひとつずつ確認して精査するだけで、頭も目も疲れ切っていた。
とは言え現場に赴く仕事は優次郎から禁じられているため、書類と向き合うしかない。
「千輝様、ハーブティーをお持ちいたしました」
「ありがとう」
そろそろ休憩しようというところで、ハーブティーを持ってきてくれる直道は有能な秘書である。
一口飲むだけでハーブの香りがスッと入り、疲れた体に沁み渡る。
「甘いものもございます」
「お前ほどの有能な人間が秘書に収まっていていいのか、と言いたくなる父上の気持ちがわかるな」
「買い被りすぎです。私はただ自分の仕事を全うしているだけですから」
直道は抄子を家族と認めなければ伯爵は継がないと言って、実家を出た。
直道の気持ちはわかるが、このままでいいのかという気持ちもある。
(とは言えこれは直道の問題だ。私が口出すべきことではないな)
ハーブティーを啜りながらしばし休憩していると、突然廊下からバタバタという騒がしい音が聞こえる。
「千輝様!!」
「なっ……抄子?」
勢いよく扉が開いたと思ったら、息を切らした抄子が飛び込んできた。
警備員たちが追いかけて抄子の肩を掴む。
「何なんだね、君は。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
「それどころではないのですっ! 助けてください!」
「失礼、その者は私の妹です」
直道が警備員を諌めて抄子に尋ねる。
「何があった?」
「灰理様が……! 灰理様が突然いなくなってしまったのです……!」
「なんだと」
千輝はガタッと立ち上がる。
人払いをして執務室には水野兄妹だけを残した。
「どういうことだ?」
「灰理様と二人で買い物に出かけていたんです。そうしたら……」
抄子は指先を震わせながら必死で説明する。
茶屋で団子を食べていた時、茶屋の主人から抄子に客人が来ていると言われて呼ばれた。



