有限の時を貴方様とともに〜化物姫は呪われた貴公子に寵愛される〜


 *

 その日、千輝は議員の執務室で書類仕事に追われていた。
 今まで休職していた分、山のように書類が積み上がっている。
 それらをひとつずつ確認して精査するだけで、頭も目も疲れ切っていた。

 とは言え現場に赴く仕事は優次郎から禁じられているため、書類と向き合うしかない。

「千輝様、ハーブティーをお持ちいたしました」
「ありがとう」

 そろそろ休憩しようというところで、ハーブティーを持ってきてくれる直道は有能な秘書である。
 一口飲むだけでハーブの香りがスッと入り、疲れた体に沁み渡る。

「甘いものもございます」
「お前ほどの有能な人間が秘書に収まっていていいのか、と言いたくなる父上の気持ちがわかるな」
「買い被りすぎです。私はただ自分の仕事を全うしているだけですから」

 直道は抄子を家族と認めなければ伯爵は継がないと言って、実家を出た。
 直道の気持ちはわかるが、このままでいいのかという気持ちもある。

(とは言えこれは直道の問題だ。私が口出すべきことではないな)

 ハーブティーを啜りながらしばし休憩していると、突然廊下からバタバタという騒がしい音が聞こえる。

「千輝様!!」
「なっ……抄子?」

 勢いよく扉が開いたと思ったら、息を切らした抄子が飛び込んできた。
 警備員たちが追いかけて抄子の肩を掴む。

「何なんだね、君は。ここは関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
「それどころではないのですっ! 助けてください!」
「失礼、その者は私の妹です」

 直道が警備員を諌めて抄子に尋ねる。

「何があった?」
「灰理様が……! 灰理様が突然いなくなってしまったのです……!」
「なんだと」

 千輝はガタッと立ち上がる。
 人払いをして執務室には水野兄妹だけを残した。

「どういうことだ?」
「灰理様と二人で買い物に出かけていたんです。そうしたら……」

 抄子は指先を震わせながら必死で説明する。
 茶屋で団子を食べていた時、茶屋の主人から抄子に客人が来ていると言われて呼ばれた。