夜会から一週間、日々は穏やかに過ぎていった。
「灰理、これを持っていてください」
「これは……?」
千輝に渡されたのは、菖蒲色の結晶体だった。手のひらに乗せられる小石ほどの大きさで、光に照らされると宝石のように輝く。
「私の瑛気を結晶化したものです」
「結晶化?」
「お守りみたいなものですよ。あなたに持っていてほしいのです。肌身離さず、ずっと」
千輝の菖蒲色の瞳がじっと灰理を見つめる。
体が火照るのを感じながら、こくりと頷き結晶をぎゅっと握りしめる。
「はい。ありがとうございます」
それ以来結晶を首飾りにして肌身離さず身につけるようになった。
不思議と千輝がずっとそばで見守ってくれているような温もりを感じる。
灰理も瑛気の結晶化のやり方を教えてほしいと優次郎に尋ねたが、上手くいかなかった。
「結晶化は結構コツがいるからな」
何度か練習してようやくできるようになったと思ったら、粉々に砕けた欠片程度の大きさだ。
こんなものを持っていてほしいとは言えず、落胆する。
(やはり千輝様はすごいのね……)
以来時間がある時に練習してはいるものの、なかなか上手くいかなかった。
他に変わったことと言えば、千輝が仕事に復帰したこと。毎日の血液摂取によりだいぶ回復し、夜会にも出席したので仕事も再開することになった。
体調が心配だが瑛気を使いさえしなければ問題ないと言い張るので、優次郎も渋々認めた。
灰理は家で家事をしたり、優次郎の元で手伝いをしたりと忙しく動き回っている。
何かしていないと千輝のことばかり考えてしまうので、なるべく仕事をするようにしていた。
「灰理様、これから買い出しに行きますが何か必要なものはございますか」
抄子にそう尋ねられ、少し考えてから灰理は答えた。
「私も一緒に行ってもいい?」
「灰理様もですか?」
「少し気分転換がしたいの」
「そういうことでしたら、まいりましょう」
二人は身支度を整え、町へ向かった。
町へ出向くのは千輝と一緒に行って以来のことだ。
「そういえば抄子の実家って伯爵家だったのね」
「ええ、そうですね」
「直道さんは跡取りとのことだけど、その、大丈夫なの?」
夜会に行ってから気になっていたことだった。
抄子はうーん、と少し思案してから苦笑する。
「良くはないでしょうね。でも公爵家の後継者候補である千輝様の秘書ですから、父も帰ってこいと強く言えないのだと思います」
「直道さんは伯爵を継ぐつもりはないのかしら」
「……私のせいなんです」
抄子は眉根を下げて俯く。
「兄さんは私を庇って家を出たんです」
「どういうこと?」
「父は非瑛人の私を娘扱いせず、そのたびに兄さんが庇ってくれました。何度も私のことで父と衝突していました」



