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直道の運転する車で本家に向かった。
別邸も相当大きな屋敷だったが、本家は比べ物にならない。
灰理は圧倒されるのと同時に、武者震いした。
(ここには千輝様に呪いをかけたお兄様、そしてお父様を死に至らしめた者がいる)
正に敵陣に乗り込むようなものだ。自分自身の出生を悟られてもいけないし、心臓が今にも飛び出しそうだった。
「灰理、大丈夫ですか?」
何度も心配そうに尋ねる千輝に灰理はニコッと微笑む。
「大丈夫です」
強がりの笑顔でもいい、強張った表情をしているよりマシだ。
千輝は腕を差し出し、灰理はその腕に自らの腕を絡ませる。深呼吸をして、静かに歩みを進めた。
煌びやかで豪華な世界に足を踏み入れた途端、周囲の視線が一気にこちらに注目した。
「あれは……! 千輝様、次男の千輝様だ」
「相変わらずなんて見目麗しいのかしら。正に光り輝く貴公子だわ」
「隣にいる女性は誰? あの髪色……」
まるで見世物のようにジロジロ見られ、ザワザワと噂をされるのは心地よい気分ではない。
だがわかりきっていたことでもあるのでじっと耐えた。
「千輝様、大変ご無沙汰しております」
「これは赤城侯爵、こちらこそご無沙汰しております」
赤城侯爵と呼ばれた男性は四十代くらいの口髭を生やした男性だった。
明らかに隣にいる灰理をチラチラと気にしている。
「あの千輝様、こちらの女性は……?」
「ご紹介いたします。私の婚約者、灰理です」
千輝の言葉に会場全体が揺れた。無論実際に揺れたわけではないが、それほどの震撼が走った。
灰理は深呼吸してからニコリと笑みを浮かべ、恭しく首を垂れる。
「お初にお目にかかります。黒須灰理と申します」
赤城侯爵は明らかに動揺した様子で、一拍遅れてから挨拶した。
「おお、左様でございましたか……。まさか、千輝様に」
「また改めてご挨拶させてください。それでは失礼いたします」
千輝はにこやかな笑みを浮かべ、灰理を促した。灰理は再度赤城侯爵に会釈し、千輝に続く。
様々な思惑の絡む視線に晒されながら、人の間を縫って目的地へと向かう。
公爵・紫上院左京の元へ。



