灰理は自ら行くと言ったが、左京に会うのは即ち父の仇かもしれない男と対峙するということだ。
灰理には告げていないが、それでも左京には会わせるべきではないとわかっている。
「——千輝様?」
灰理が怪訝そうに千輝を見つめている。
「どうかされましたか?」
「いえ、少しだけ考え事をしていました」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それより灰理、本当に行きますか?」
千輝はもう一度問うてみた。
心配そうに瞳が揺れていた灰理だが、その問いには顔を上げて真っ直ぐ千輝を見据える。
「はい、参ります」
最初に出会った頃は酷く怯えた子羊のようだったのに、いつしか力強い目になっていた。
優次郎に弟子入りし、自らの血を飲ませるという療法を思いついたのは灰理だった。
千輝が倒れた日から、灰理はどんどん強くたくましくなっている。
千輝を助けたいという真っ直ぐな思いが、彼女を強くしている。
守ってあげなきゃいけないと思っていたか弱い少女はどこにもいない。
むしろ今は千輝の方が守られている。
「わかりました」
千輝はふうと息を吐き、腹を括る。
「でも約束してください。絶対に私のそばを離れないこと」
「もちろんです。千輝様は私がお守りします」
「……私にも守らせてほしいのですがね」
千輝は苦笑しながら、灰理の頭を撫でる。
それだけで耳までりんごのようになる灰理が愛おしくてたまらなかった。



