自分が短命の呪いを受けたことで、残酷な真実を知ってしまった。理人もまた短命の呪いに冒されていたことに。
(晩年の叔父上の体には黒い痣が広がっていた。叔父上は何でもないと言っていたが、あれは呪いの証だ)
強大な治癒の瑛気を持つ理人に毒を盛れる者など限られている。
きっと身内の誰かに違いない。近親者の中に理人を殺害した者がいるという事実は、千輝の心を打ち砕いた。
そして、その者には心当たりがある。証拠はないが動機はある。
理人は公爵家の地位を捨て、医者となった。
それでも唯一無二の瑛気を持ち、誰よりも誇り高い人徳者だった理人こそが紫上院の当主に相応しいという声は根強かった。
(そんな叔父上を邪魔に思う者がいたとしたら——それは現当主の父上だ)
確固たる証拠があるわけではない。
だが理人に毒を盛れる人物が限られている点からしても、父の左京である可能性は高い。
証拠がない以上は千輝の推測でしかないが、それでも実父が叔父を殺めたかもしれないなんて受け入れ難い。
蘇芳に殺されかけたことも含め、千輝は一族に絶望した。
(紫上院の、公爵家の地位がそんなに大事なのか?)
左京が公爵でいる限り、この世は変わらない。蘇芳が継いでも無論何も変わらない。
強きものがこの世を制し、弱きものは虐げられる。異端は徹底的に排除され、優次郎や水野家を追われた抄子のように日陰に追いやられる。
そして、灰理が理人の娘だと知られたらどうなるか——。
千輝は残りわずかな命を理人との約束を守るために捧げた。
灰理を婚約者として迎え入れ、別邸に匿う。
(私が生きている間に、灰理さんが安心して暮らせるように整えておかねば)
黒須家で劣悪な扱いを受けてきた灰理は、いつも遠慮がちだった。
そんな彼女の笑顔が少しずつ見られるようになるたび、心が安らぐ。
かわいくてかわいくてつい甘やかしたくなる。
妹のように思っていたはずなのに、いつしか彼女の純真さと健気さに心惹かれていた。
紫上院家に嫁げばその後未亡人になったとしても、良縁があるだろうと思った。
どこかの家に嫁げばもう紫上院との縁はなくなる。それで灰理の身は守られるだろうと思っていた。
(それなのに今は灰理を手放したくないと思っている。他の男のものになるなんて、考えただけで気が狂いそうだ)
今もそうだ、美しく着飾った灰理を誰にも見せたくない。
誰の目にも触れさせたくないし、そもそも本家に灰理を連れていくのは危険すぎる。



