次期当主を目指して瑛国議会に入り、二十歳になってしばらくしてからあの事件が起きた。
増幅薬はたまに服用することがある。任務で瑛気を多用する際には事前に飲んでいた。
用法用量を守れば何の影響もない一般的な薬だが、あの時渡された増幅薬は致死量を超えていた。
そんなことにも気づかず飲んでしまった千輝は生死の境を彷徨った。
目が覚めた後に優次郎から聞いた話だが、増幅薬を渡した者は蘇芳配下の使用人だった。
後に行方をくらまし、水死体となって発見されたその使用人は恐らく蘇芳の命で動いたに違いなかった。
優次郎は蘇芳を問い詰めたらしいが、『あの使用人が量を間違えた』としらを切っていたという。
(兄上は私を殺したい程憎んでいたのか……)
嫌われているとは思っていたが、殺したい程憎まれていたことには衝撃と悲しみを隠せなかった。
やがて体に黒い痣ができ、千輝の体は短命の呪いに冒される。
日に日に広がる痣を見て、脳裏に過ったのは顔も知らないいとこのことだった。
(叔父上に娘がいたと知っているのは私だけ。死ぬ前に一目会いたい)
千輝は理人の隠し子の件を優次郎と直道にだけ話した。
優次郎は幼少期こそ理人を取り合った仲だが信頼のおける友人でもあり、直道は優秀な右腕だからだ。
優次郎は隠し子の存在を知らされていなかったことに不満げだったが、協力してくれた。
直道も秘書としての仕事の傍らで情報収集をしてくれていた。
薬と優次郎の治癒で体を騙しながら、懸命に探し続けてやっと見つけたのが灰理だった。
(よっぽど酷い扱いを受けていたようだ。かわいそうに)
彼女に対して最初に抱いた気持ちは庇護欲だった。
他人とは異なる黄金色の髪、どんな傷も一瞬で治る不死の体を持つ灰理は不死の化物姫などと蔑まれていた。
瑛人の世界で瑛気を持たない者たちが虐げられるように、特別な瑛気を持つ灰理は非瑛人の間では異端となる。
下級貴族の娘でありながら、山奥の小屋に追いやられるという酷い扱いを受けていた。
灰理は髪色だけでなく、その面影はどことなく理人を思わせた。
間違いなく彼女は理人の娘なのだと確信する。
どんなことがあろうとも、この子だけは守り抜くと心に誓った。



