千輝は思わず目を見開いた。
灰理は象牙色のドレスを纏っている。派手な色ではないが灰理の髪色によく合っており、上等な絹の生地が高級感と上品さを演出していた。
長い髪を後ろで束ね、くるりと巻いて結い上げている。
結い上げた髪には千輝が贈ったかんざしが刺さっていた。
唇には紅を引き、いつも以上に美しく輝く彼女に目も心も奪われる。
千輝が灰理を凝視して黙り込んでいると、灰理は恥ずかしそうに俯く。
「……何か言ってください」
「ああ、すみません。あまりの美しさに見惚れてしまいました」
「そんなこと……」
「とてもよくお似合いです」
千輝が微笑むと、灰理はますます顔を赤らめる。
その愛らしい姿に抱きしめたくなる衝動に駆られる。このまま誰の目にも入らせず、どこかに閉じ込めておきたい。
そんな独占欲を抱くようになったのはいつからだろう。
自分がこんなにも邪な気持ちを抱いていると知ったら、灰理は離れていってしまうかもしれないと思った。
心底敬愛する理人に実は娘がいると打ち明けられた時、いとこがいるという事実よりも大事な秘密を自分にだけ教えてくれたことの方が嬉しかった。
理人と同じ黄金色の髪を持ち、千輝よりも五つ下らしい。
『妹のように接してくれたら嬉しい』と理人に言われ、すっかりその気になっていた。
跡目を争う二つ上の兄・蘇芳とは仲が良いとは言えなかった。
紫上院の初代当主と同じ光の瑛気を持って生まれた千輝は、理人とはまた違った意味で特別な存在とされていた。
故に父は長男だからいうだけで蘇芳を跡取りには指名しなかった。だから千輝は生まれた時から蘇芳に疎まれていた。
当主になりたい兄を押し退けてまで自分が当主になりたいとは思えなかったが、手を抜くようなことがあれば父には叱られ兄にはもっと疎まれる。
母親を知らずに生まれた千輝にとって、唯一の心の拠り所は理人だけだった。
(いとこはどんな子なのだろう。早く会いたい)
だが理人が亡くなり、それは叶わなかった。
悲しみに暮れながらも理人の遺志を受け継ぐと誓い、より一層勉学に励んだ。



