有限の時を貴方様とともに〜化物姫は呪われた貴公子に寵愛される〜



「……わかった」
「本当ですか!?」
「ですが灰理さん、絶対に無理はしないでください。あなたの体に異変が起きるようならすぐにやめます」
「はい!」

 灰理は嬉しくて思わず優次郎の顔を見た。優次郎はこくりと頷く。

「まずは血液を飲んでも問題ないかを確認したい」

 優次郎は注射器を取り出し、灰理の腕にプスリと刺した。チクッとした痛みとともに赤黒い血が注射器に飲み込まれていく。
 優次郎はその摂取した血液を一滴垂らしてお猪口に移した。

「とりあえずこれだけ飲んでみろ」

 お猪口を渡された千輝は、複雑な表情を浮かべていたが意を決してそれを飲み干す。
 灰理と優次郎はその様子をじっと見守った。

「……どうだ?」
「血の味がするだけだな」
「体はどうだ? 変な感じがするとか、楽になったとかはあるか?」
「いや、わからない」

 一滴では変化は見られないようだ。

「いきなり多量の血を飲むのは危険だ。少しずつ量を増やして様子見しよう。灰理、それで良いか?」
「構いません」
「お前は大丈夫か?」
「このくらい何でもありません」
「よし、とりあえず一週間続けてみよう」
「よろしくお願いします」

 灰理は急に気が抜けたのか、一瞬ふらついたが優次郎に支えられる。

「おい、本当に大丈夫か?」
「すみません、何だか安心したのか急に気が抜けて」
「安心するのは早いぞ。まだこれからだ」
「そ、そうですね」

 灰理は改めて気を引き締める。

「……いつまで触っているんだ」

 千輝がじとりとした表情で灰理を支える優次郎の手を睨む。灰理は慌ててパッと離れた。

「す、すみません。紫倉先生ありがとうございます」
「いや」
「というか二人とも、なんだか仲良くなっていないか?」
「別に普通だと思うが」
「優次郎、お前いつから灰理と呼ぶようになったんだ」

 言われてみればいつの間にか名前を呼んでくれるようになったな、と灰理は思った。
 千輝を助ける方法を探し出すのに必死で全く気に留めてもいなかった。

「別に……」
「馴れ馴れしいではないか。灰理さんは私の婚約者だぞ」
「千輝様!」

 灰理の顔はりんごのように真っ赤に染まる。
 対して優次郎はげんなりした表情を浮かべていた。

「うるさい。どちらかといえばお前がいつまでも他人行儀だろう」
「むぅ……それは」
「なんでいつまでも猫被っているんだ」
「猫被っているわけではなかったが……確かにそうだな」

 千輝はコホンと咳払いする。

「これからは灰理と呼びます」
「ええっ!?」
「構いませんか?」
「それは……もちろんです」
「では、灰理」

 何故だろう、呼び捨てにされたというだけのことなのに。
 千輝の鈴の音を転がすような声で呼ばれると、心が弾んで落ち着かない。

「灰理、私のためにありがとうございます」
「い、いえ……」
「あなたに負担をかけるかもしれませんが、よろしくお願いしますね」
「も、もちろんです」

 自分にできることなら何でもするから、どうにかして生きていてほしい。

(だって、あなたを愛しているから)

 灰理は決して口にすることはない言葉を、自分の胸の中だけで囁いた。