この三年、呪いを解く方法を探し回ったが方法は見つけられなかった。
瑛気の使用を最小限に抑え、優次郎の治癒で何とかここまで生きながらえてきたがもう限界に近い。
だが灰理は真剣な眼差しを向け続ける。
「あなたが眠っていた二日間、私はあらゆる文献を読み漁りました。何とか助ける方法がないか、探していたのです」
何かしていないと心が折れそうで、とにかく何かないかと手当たり次第に文献を漁った。
『灰理様! お食事も召し上がらずに……! お体に障ります!』
何度も抄子にそう言われたが、構わず徹夜で読み耽る。食べる間も寝る間も惜しみ、千輝を救う手立てを探し続けた。
(千輝様は私の命の恩人。今度は私が、あの方をお助けしたい)
何よりも千輝を失うなど考えられない。千輝を救えるのなら——。
血眼になって探していた中、ある文献に目が止まる。それは、瑛人の血液に関する文献だった。
「その者の血液を一定量飲めば、その瑛気の効果が表れるというものです」
「それは、禁忌とされている行為ですよ?」
確かに可能とされているが、他人の瑛気を使用するためには多くの血を体内に取り込む必要がある。
血を抜かれた者は失血死に陥る可能性があるし、血を飲んだ者も瑛気が自分の体に合わないと拒否反応を起こし、最悪の場合死に至る。
仮に血液が体に合致したとしても、その効果は一時的なもの。
その割合は限りなくゼロに近く、合致した例はほとんどないらしい。
あまりに危険性が高いことから他の瑛人の血液を抜き、摂取する行為は禁忌とされている。
「わかっています。でも私はいくら血を抜かれても死にません」
「そんなのわからないじゃないですか」
「私と千輝様は血縁関係があります。血が馴染む可能性があります」
「でも……!」
「お願いします、どうか私の血を飲んでください」
灰理は深々と頭を下げた。千輝は困惑した表情で灰理を見つめている。
無茶苦茶を言っている自覚はあるが、これしかないと思った。
呪いを完全に消すことはできなくても、和らげるくらいはできるかもしれない。灰理の持つ再生力の瑛気ならば、僅かな望みがあるかもしれない。
「どうかお願いします。一縷の望みがあるなら、それに賭けたいのです」
「そんなのできません! あなたを危険に晒したくない」
「私なら大丈夫です!」
「絶対にダメです!」
「お願いします!」
灰理は涙を浮かべ唇を震わせながら、藁にもすがる思いで千輝を見つめる。
「私はあなたを……千輝様を失いたくありません」
「灰理さん……」
「俺も、その方法に賭けてみてもいいと思う」
ガチャリと扉が開いたかと思えば、優次郎が現れた。
「優次郎」
「俺は灰理に提案された時、これなら千輝を助けられるんじゃないかと思った」
「優次郎まで何を言い出すんだ」
「他に手立てはないんだよ!」
優次郎は悲痛な表情で声を荒げた。
「俺の治癒ではお前を治せない。ほんの僅かでも可能性があるなら……それに賭けたいんだ」
「優次郎……」
「頼む千輝……。理人様のように見ているだけで何もできないのは、もう嫌なんだ」
優次郎は今にも泣き出しそうなぐしゃぐしゃの表情をしていた。
いつも仏頂面だが、不器用なだけで優しい。そんな彼の一面がありありと見える表情だった。
灰理ももう一度頭を下げる。
「お願いします。私の血を飲んでください」
千輝は苦悶の表情を浮かべて唇を結んでいたが、やがて腹を括ったように頷いた。



